荒野の狼

プリジョネイロの荒野の狼のレビュー・感想・評価

プリジョネイロ(2021年製作の映画)
4.0
福音書は、キリストの弟子の1ヨハネ、2マタイ、3ルカ、4マルコの4人が記したイエスの言行録である。これはそれぞれ「神(創造主)として」「王(領主)として」「人(羊飼い)として」「奴隷(羊)として」のイエス、という階級構造を持っている。すなわちイエス•キリストはこの全て(神、王、人、奴隷)の総称と言っていい。
わかりやすくシンプルな映画であるが、学ぶことは多大である。
この映画は一見マティウスを中心に描かれているが、実は要(かなめ)となるのは羊飼い(指導者)ルカである。
彼にただ反発するだけの4+3人の使役仲間は羊(奴隷)だが、その中から抜きん出た一匹の羊がマテウスだ。彼はルカと和合する事によってルカと同等の指導者つまり取り締まられる立場から、取り締まる側となる。隷属(B層)から抜け出すには支配者側(A層)に回る以外に道はない。しかしルカがそうであるように、羊飼いの上には更に元締め(領主S層)がいる。さてマテウスは、次のステップ(領主の側)に進む事ができるだろうか?この後、彼がどうなるかは彼の名(マテウス=マタイ)が、それを暗示している。彼は母からの原理(真珠のネックレス?)を携えていた。
上に立つ者は、下にいる者を生かす事もできるが、殺す事もできる。生かす事が上に立つ者の使命であろう、下を潰すことではない。奴隷は奴隷を救えない。
単にブラジルの貧困を描いた映画ではない。この構造は有史以来、この世界の姿そのものであろう。裁くのは神である、人は神にはなれない。多くが成れてせいぜい「良き羊飼い」だ。上に神(原理)をいただく良き領主の下で、そうありたい。 
荒野の狼

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