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やがて海へと届くのニシのレビュー・感想・評価

やがて海へと届く(2022年製作の映画)
3.1
信念や矜持がなく、現代社会でフニャフニャ滞留する若者を描くの自体に全く面白味がなく、散々に現代の作家によって語り尽くされなんの真新しさもない。更には海の表象が最悪だった。浜辺美波が髪を黒に染めても、浜辺美波が死んでも、光石研が死んでも何事もなかったかのように回り続ける世界で、岸井ゆきのは海を目下にすることで浜辺美波が存在したことを、また自分が過去に悩んだ事実を反芻するのだが、海はそんな誰かを慰めるための装置として使われるべきではなく、小津「晩春」のように保守的な革命手段で以て原節子を結婚させることに成功した笠智衆への寄せては返す波として、池田千尋「人コロシの穴」で手錠をつけられることにより女性性を自らなぶり捨て革命の狼煙をあげる湖として、イーストウッド「ミスティックリバー」の隆盛する文明に対して人知れず隠されていた濁った河川として、使われるべきだ。海は決して個人的なものではない。誰かにカメラを向ける行為も、浜辺美波の、面と向かって喋るのが恥ずかしいからそこにカメラを媒介させるものと、東日本大震災被災者が自分の経験したことを歴史的文化的に語り継ぎ古今東西地球の裏側まで届ける目的としての記録装置を同列に語るのはあまりにも無神経。どんなに被災者の方と信頼を築いていてもそれはやってはダメなこと。
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