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Moffie(原題)のGreenTのレビュー・感想・評価

Moffie(原題)(2019年製作の映画)
3.0
1981年、人種隔離政策下の南アフリカで、徴兵された青年のお話です。

16歳のニコラスは、徴兵制度で2年間、ブートキャンプに行かなくてはならない。無口で内向的なニコラスは、他の男の子たちのマッチョさや残忍な教官などが肌に合わないが、大人しく目立たないようにしている。

面白いのは、こういう環境で若い男の子たちが集まると、必ずガキ大将みたいのがいじめを始めるじゃないですか?ニコラスは「英語を喋るヤツ」ってことで目を付けられる。

他の子が喋っているのはアフリカーンス語ってヤツらしく、全然わかんないんだけど字幕観てると “best” とか英語そのまま使っていたり、 “fuck” “motherfucker” なんてのはまんま英語だったり、要するに英語と現地の言葉が合体した言語なんだろうな。で、「多言語主義」だったらしく、他の子同士はアフリカーンス語で喋ってて、ニコラスに話かけるときは英語で喋る。

ニコラスはどうも、軍隊に入って自分がゲイであることに気づいたらしい。お父さんにポルノ雑誌もらっても嬉しそうじゃなかったから、自分でもわかっていたのかも知れないけど。しかし南アフリカではゲイはご法度らしくて、見つかったゲイの子たちはボコボコにされ、みんなの晒し者になって「moffie! moffie!」と罵倒される。moffie とは、faggot(ホモ野郎!みたいなゲイを蔑む言葉)って意味らしい。

ゲイってバレるとWard22と呼ばれる精神病院みたいなところに送られ、治療と称して薬物の実験台にさせられたりするらしい、って男の子たちがウワサしているんだけど、後で調べたら、この頃の南アって、ゲイでも徴兵から省かない、だけど軍隊に来てからゲイだからって理由でWard22に送るということをしていたらしい。

「〜らしい」って連発しちゃうけど、この映画はいわゆる戦争映画でありゲイ映画なんだけど、どちらもすっごい淡々としている。銃撃戦も肉片吹っ飛ぶ爆撃もないし、ゲイ・セックスもない、すべてが「ニュアンス」ってやつ。すっごい「アート映画」っぽい。あと、人種差別も描かれるけど、それも淡々としている。だから「ああ、多分こういうことなんだろうな」って感じになっちゃう。

原作を書いた人も監督も、南ア出身のゲイの男性で、この映画で描きたかったのは、ゲイに対する弾圧をしたり、アパルトヘイトをしたり、そういう差別や偏見に満ちた政府のために従軍させられる若者の気持ちなんじゃないかって感じがした。

iMDb には、「監督のオリバー・ハーマナスって人は有色人種なんだけど、この映画は特に白人の若者たちに焦点を当てた」って書いてあって、それも興味深いなって思った。南アって特に、少数派の白人が大多数の有色人種を支配する国だったと思うんだけど、そんな国で有色人種として育って、だけど敢えて「支配階級である白人の男の子たちは、どんな気持ちだったんだろう?」って思ってこの映画を作ったのかなあ。

過酷なブートキャンプとの対比で、オフの時ニコラスが仲良くなった男の子と『シュガーマン』の歌を歌ったりするシーンは、初々しくていい。

シュガーマンのドキュメンタリーがめちゃくちゃ面白かったので「あ!シュガーマンだ!」って思った。やっぱ南アでの人気は相当なものだったのね。
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