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オッペンハイマーのGreenTのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
全米公開日に、IMAXの朝一 (10:30AM) で観て来ました!

J. ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、優秀な学生だったのだが、アメリカの大学に馴染めず、ドイツでPh.Dを取得する。帰国後、アメリカには量子物理学の分野がないことを知り、自ら教え始める。

この分野で名を知らしめたオッペンハイマーは、核爆弾開発のための「マンハッタン計画」のリーダーとしてアメリカ軍からリクルートされ、「原爆の父」として苦悩の人生を歩み始める・・・。

「原爆の父」オッペンハイマーの半生を描くガチの一大叙事詩で、最初の30分くらいは「もしかしてすっごい退屈なのでは」と思ったけど、原爆の事前・事後の出来事、オッペンハイマーの主観的・プライベートな視点、原爆・戦争を取り巻く客観的な視点を巧みに交えて、すっごいサスペンスもあるし、戦争というものがなぜ起こるか、なぜ終わるか、政府の内情みたいなものを良く描いていて、3時間という長尺にも関わらず集中できました。

キリアン・マーフィーは主演男優賞獲るんじゃないか?原爆を開発した「マッド・サイエンティスト」なのかと思いきや、繊細で神経質な感じも良く出ているってかそういうのこの人上手いし、だけどやっぱりマッド・サイエンティスト的なところもあったり、あとこの時代の男の感じが良く出ていて、『プルートで朝食を』でキトゥンちゃんを演じていたこの人が、こんな「昭和の男」になれるんだ!ってすごい感動した。

この映画の中で語られる限りでは、当時第二次世界大戦中で、ドイツ=ナチスが大量破壊兵器を作っているので、それに対抗するために1年あまりでこちらも兵器を開発しなければならなかったらしい。

オッペンハイマーはそのリーダーに任命されて、アメリカ軍の指揮者レズリー・グローヴス(マット・デーモン)とアメリカ中の大学から科学者をリクルートしに行くのだが、みんなやりたがらない。ロス・アラモスに住み込みさせられるのもイヤだし、任務が終わったら国からなんの保証もされないだろ!って言う人もいた。

マット・デーモン、きらいなんだけどさ〜、この人いい役者さんになったよね。『エア』でも思ったけど、おっさん臭い感じが上手い。トムクルみたいに若くあることにこだわるより、こういう年相応の役を演ってる人の方が評価するなあ。

あと、ロバダウも出てるのよね。ルイス・ストラウスと言う、原子力委員会の委員長なのだが、最初わかんなかったよ。かなり老けメイクしてた。こちらも「昭和の男」的な感じを良く表現していたけど、このキャラなんか『ナチュラルボーン・キラーズ』のウェイン・ゲイルを彷彿とさせた。「大物だけど実は小心者」的な。

マット・デーモン、ロバダウを初めとして、え!こんな人も出てる!が次々続くので、それも長尺でも飽きない理由の一つだった。

前半はジョシュ・ハートネットが科学者の役で出てきたり、聴聞会ではトニー・ゴールドウィンやジェイソン・クラークが出てきたり、アダム・ウルフが何気なく学生役で出ていたり、ちょっとした役もみんな顔を知っている人。

その中ですっごい輝いていたのが、オッペンハイマーの愛人を演じるフローレンス・ピュー!これはすごい。なんかめっちゃ妖艶で、すげーバリバリ脱いでた。さすがこの映画だったらヌードやる価値あるし、やっぱこの時代の空気感はおっぱい隠したままでは出せない!

実際はオッペンハイマーとこの愛人、ジーン・タトロックは10歳違いだったらしいのだが、ピューとキリアンは20歳違い。しかし、キリアンって若々しいので、『ミッション・インポシブル』みたいに「娘のような女と」って感じがしない。この二人がLovers だってのに納得行く。

ピューはかなりチャレンジングなヌードシーンを演っていたが、これは価値がある。助演女優賞上げたいところだけど、スクリーンタイムが少ないのでノミネートはされないだろうなあ。

原爆を落とされた国は日本だけなので、この辺も「アメリカの『勝者の理論』を展開して来るのかな?」と心配していたけど、そんなことはなく、戦争ってこういうもんだよな、と納得させられた。

先に言及した通り、アメリカが原爆作ったのは、ナチスが先に作ったら大変なことになるって理由として描かれている。私はブッシュが明らかに嘘の「大量破壊兵器所有」を理由にイラク侵攻したって欺瞞を目の当たりにしている世代で、あの時「またなんかいい加減な言いがかりつけてんな〜」と全く緊張感なかったのを憶えているけど、この映画では、すごい緊張感があって、「そりゃビビって原爆作りたくもなりますわな」と納得させられる。

しかし、ナチス・ドイツに対抗するために原爆作り始めたのなら、なんで日本に落としたんだよ?やっぱナチスであっても白人同士にそんなことするのは忍びないけど、日本なら、アジアならオッケーってこと?!ってちょっとハラハラした。こういう映画を観ていると「ああ〜、やっぱ白人ってあんまりアジア人に親近感ないんだなあ」と感じさせられることが良くあるから。

けどそれは杞憂で、ドイツ降伏後も日本が降伏しなかったかららしい。これはアメリカってか連合軍にとってはやっかいだったに違いない。ナチスが降伏してやっと戦争終わるってのに、面倒くさいやつがいるなあ〜って。

日本的には、このまま降伏したら白人にアジア席巻されてしまう!って思う気持ちは痛いほど分かるのだが、戦争を終わらせようと思っている人にとっては「自己中なヤツ!」って思われちゃうのも理解できる。

ってか「本当に世界どーなるの?!」って危機感、今まさに私達も第三次世界大戦が起こるんじゃ?とか、アメリカだって分断化されて内戦になりかねないような状況なのに、この映画で描かれるこの危機感が全くないなあと思う。だから「戦争反対!」「戦争良くない!」って簡単に言うけど、こんな状況だったらやらねばならない!ってなるよな、って思わせてくれるこの映画の作り、私ノーランって苦手だったけど、こんな一大叙事詩にこれだけ色々詰め込んで、だらけるところもなく、手に汗握る緊張感で見せ続けることができるのすごいなって思った。

あ、でも、「日本のどこに原爆落とすか」って会議で「京都は素晴らしい都市だからリストから外そう。新婚旅行で行ったのでね」って政府の偉い人(誰だか忘れた)が言ったのはズッコケたけど、そういうもんなんだろうなあってこれも納得させられる。

すっごいセリフ多くて、DVDで巻き戻しできるわけじゃないので解らないところもかなりあったのだが、それでも全体の流れや登場人物の行動の動機などはハッキリしていて、ってことは言葉でなく映像での表現がちゃんとしているからかなと思った。

あと、「ロシアが原爆作ってるらしい。内部にスパイがいるんじゃないか?」って話し合いをするシーンで、会食みたいで丸テーブルのど真ん中にでっかい生花というか花瓶があるんだけど、話し合いにそれが邪魔で、動かすシーンが何度も出てくるのが微妙に笑えたりする。こういうちょっとしたユーモアは随所にあったなあ。あ!このシーン、マシュー・モーディーン出てたな。それとキリアン、ロバダウ、ジョシュ・ハートネットと、目が離せない。

私が普段劇場に行かないのは、アメリカ人って家にいるみたいに良く喋るからなんだけど、今回はみんなシーンとして観てた。やっぱいい映画なら集中するんだろうな。

しかしIMAXで観る必要あったかなあ〜と思う。もちろん、原爆爆破のシーン(トリニティ・テスト)はすごいんだけど、映像より音だよね。音がすごくて体がジャンプしたよ。あと、撮り方を工夫していて、衝撃が倍増されている。これは観てのお楽しみ。

オッペンハイマーという人に関しては、純粋に科学に興味がある人だったのに、戦争に巻き込まれ、とてつもないものを作り出してしまったと悟り、原爆開発を止めようと活動し始めるんだけど、開発した後は政府が持ってってしまい、しかも危険を訴えるオッペンハイマーを排除するために政治的に葬り去ろうとする。

という側面も描きながら、でもオッペンハイマーも科学者としてのエゴというか、すごいもの作ってみたいってのに抗えなかったんじゃ?って側面も描いている。あ!この映画、モノクロとカラーのシーンがあるんだけど、モノクロは史実に基づいたシーンで、カラーはノーランの創作で仕上げたシーンらしい。

でも、途中まで開発してやっぱ止めましょうとはならないよなあ。いずれにしろ、トゥルーマン大統領がオッペンハイマーに「原爆を落とした大統領として思い出されるのは俺だ。開発した科学者なんて誰も気に留めない」みたいなこと言う。結局、最初にリクルートを嫌がった科学者が言っていたように、必要なくなれば吐き捨てられるんだなあと思った。

この大統領がゲイリー・オールドマンで、こいつシド・ビシャスとかピンプのドレクセルとか演じてたのに、いつの間にか大物政治家演じる人になっちゃったよなあ。

この人もキリアンもマット・デーモンもロバダウも、私世代の人なので、この人たちがこんな深みのある俳優に成長したってのが感慨深くもある。特にキリアンは、『バットマン』にオーディションしてスケアクロウにされちゃった過去があるけど、オッペンハイマーとして主役張る方がバットマンより役者として意義があるなあと思った。

そしたらジョシュ・ハートネットもバットマンのオーディションに誘われて断ったらしい。

そういう私世代の役者さんたちの成長も見られ、それに加えてピューを初めとする最近の俳優もすごい好演していて、無駄がなくてすごい。

あ!ケイシー・アフレックも出てたな。ほんとちょっとなんだけど、こういう役に持ってきたのは友情出演?みたいな無駄な感じしないのよ。みんな必然性があって、ノーラン監督もタランティーノみたいに役者を輝かせる監督なのか?って思った。

あとそうそう、ラミ・マレックは技術者の役で、2回出てきた時セリフもなくちょこっとしか出てこないのでなんだかな〜って思ってたら、後でキーパーソンになる人で「おお〜!」って思った。

無駄といえば、長尺なのに無駄なシーンがほとんどないのもすごいよな。

一つ気になるシーンがあるんだけど、ネタバレになるのでコメント欄に書きます。これも含めて、DVDが出たらもう一回観て色々確かめたい。
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