ダンクシー

オッペンハイマーのダンクシーのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
「我々は破壊した」

面白かったけど、ノーランは完全に監督賞を狙いに行ってたな〜!ダークナイトからお預けされたきた監督賞をようやく回収した。このテーマ設定も演出もストーリーも監督賞を重点的に視野に置いてるが故だと感じましたね。まあ受賞はおめでたいことなので素直にオメデトウゴザイマス!!当然ですね、ノーランは最高の監督ですから。

オッペンハイマーとストローズの2人がメインの構成となる。オッペンハイマーのパートはカラーでストローズのパートはモノクロ。そんで投下後の聴衆会での問答からお互いの回想へと繋がっていく。そこでややこしいのが、時系列がごっちゃになっているだけでなく、カラーパートとモノクロパートで時系列がリンクする場面も、色が異なるのでとても分かり辛い。そして登場人物の多さ。
この作品は予め、ある程度史実に基づく時系列を予習しておくことをオススメする。絶対その方が分かりやすくなると思う。

ノーラン初のラブシーンという事もあり面白かったし、ノーランらしさも結構感じた。観客を飽きさせないための演出の数々や一定間隔で流れる大きめの重低音。
人間描写が妙にあっさり淡々としていたし、良くも悪くもエンタメしか撮れない人なんやろなぁと。人間模様みたいなのはあんまり向いてないかもね。オッピーさんがただの傲慢な性獣にしか見えなかったし。。


しかし、爆発する場面の静けさやたるや。たけし映画のバイオレンスシーンでの静寂のように、激しい場面での静と動の使い分けが巧いと、感心のあまり唸ってしまいます。それと原爆投下後の、湧き上がる大衆の前でのオッペンハイマーがスピーチする場面。狂気のごとく騒ぐ大衆と原爆の悲劇をリンクさせる演出はお見事としか。

ラストシーンのオッペンハイマーとアインシュタイン。核爆発が大気に引火し燃え広がるという仮説が出てきましたが、実際はそんなことはありませんが、その核の連鎖反応は起こってしまった。現実で起きたワケでも物理的に連鎖したワケでもなく、核兵器が世界中に広まってしまったことの比喩表現だろう。オッペンハイマーが原爆を作ったことにより、世界中に連鎖するように広がっていった。アインシュタインがストローズを無視して去っていったのもそれを悟ったからでしょう。世界中に広まった核兵器が発射され炎が地球を包み込んでいく最悪の未来をオッペンハイマーは予知しつつ、恐ろしい兵器を作って広めてしまった事への責任感と後悔、連鎖の比喩の3つの要素を同時に意味を込めて描いた。とんでもないラストだ。

あと、俺が観た限りでは、原爆肯定だなんだの騒ぐのは違うかなぁと思った。マジで。原爆が安楽的に描かれてなかったし、人類史上最も恐ろしい兵器を開発してしまった苦悩と葛藤がよく描けていたと思う。当時のアメリカの大統領や大衆の原爆を良いものと捉える身の毛もよだつほどの狂気と、対比になっていたからより鮮明に浮かび上がってメッセージ性が伝わり、観客にインパクトを残しつつしっかり是非を問うていた。
広島や長崎を直接描かなかったのはある種の配慮とビビりもあると思う。でも、これに対して日本人が怒るのは悪いことでは無いと思う。俺も描いて欲しかったと思うし。その方が原爆の恐ろしさとか被害が世界中の人達にもっと伝わると思うし。日本人として、こういった感性を持つのは当たり前だと思うし、持っていないといけないとも思う。それだけですねー。
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