きらきら武士

オッペンハイマーのきらきら武士のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.2
原爆に対する様々な思いを抱えながらこの映画を観ると、割と肩透かしに終わる。この映画はタイトル通り、オッペンハイマーという人物個人に焦点を当てた映画だ。彼をギリシア神話のプロメテウスに例え、少し高尚に描いた伝記(スリラー)映画だ。
映画の大部分はオジサン逹の会話シーンに費やされており、メインはオジサン同士の駆け引きやサスペンス。政治。オッペンハイマーに加えて著名な物理学者や豪華キャストが続々登場するが、人物が多数入り乱れるので誰が誰なのか見失いやすい。見失った。

クリストファー・ノーラン監督おなじみの時系列シャッフルは今作でも駆使されている。が、今回はついていくのがかなりつらかった。技巧的な時間操作に少々うんざりした。
ノーラン監督の『TENET』はじめ、エンタメ色の強い作品はすごく楽しめたし、戦記ものの『ダンケルク』も少々かったるかったが描かれる対象の拡がりがあり、時間と空間=「時空」を歴史と絡める描き方が新しくて面白かった。しかし本作においては、時空がオッペンハイマーに固定されていて拡がりに欠けた。オッペンハイマー個人の人生の時系列を複雑にシャッフルするが、殊更サスペンス仕立てにするために技巧を凝らしただけなように思えて面白くなかった。
オッペンハイマーに固定されているから、当然遠い日本の広島長崎などが描かれることはない。セリフや彼の心象風景として表現されるだけだ。映画的にはそれでバランスは良いのだろうが、終始「思ってたのと違う」感じをぬぐえなかった。というか、そもそもオッペンハイマー自体にそこまで関心が無かった。そして観ていて最後まで関心が持てなかった。

今回は娘と一緒に本作を観た。以前に長崎の原爆資料館を訪れた体験から興味を持ったのだろう。R15+指定に気づいた時は性的表現を少し心配したが、実際にはあまり問題なかった。と、思う。彼女がどう受け止めたかまではわからない。もっとも彼女にとっては、ただひたすら人物の誰が誰かを追い続ける、このオジサン誰?このオバサン誰?、今どこ?今なんの話?が延々続く3時間だったようだ。それ以外では「アインシュタインが激似だった」「愛称がオッピーとかウケる」が概ね彼女の感想だった。若い娘には難しすぎた。そういう意味ではR15+というか、ある程度知識が無いと難しい映画と言える。ネットを見ると映画を観るための予備知識の解説サイトや解説動画があるようだった。いいね。観ないけど。

一つ印象に残ったのは、原爆投下に湧くロスアラモスの人々を批判的に愚かしく描いているシーン。控えめな表現ではあるが、アメリカ映画であのような描き方が出来るようになったことが一つの進歩のように思えた。遅々としたものではあるが、歴史の審判は確実に進んでいると感じた。多数の自国兵士の命を救うために多数の他国の一般市民を虐殺する正当性など無い。軍人や政治家のその場しのぎの言い繕いは歴史の前に敢え無く風化する。虐殺という不変の事実だけが残るのだ。

広島や長崎からどうしても心が離れない、原爆のことを見たい知りたいという人にはこの映画はちょっと遠回りすぎる。が、アメリカも少しずつ変わってきているか? と思えたことが希望にはなった。

それにしてもノーラン監督はちょっと大作指向と技巧主義に傾き過ぎじゃないですかね。そういえば、音楽もやたらと後ろでなっててうるさく感じた。長い3時間だった。

最終的に、帰りに娘と中洲を散歩してもつ鍋を食べたのがセットでいい思い出になった。オッピー、ありがとね。

(点数は思い出込み)

#2024 #24
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