砂場

オッペンハイマーの砂場のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
アジア某国で観ました。IMAXがなんと約800円という安さだった!
事前にオッペンハイマーとかマンハッタン計画についてサッと調べて
鑑賞したが時系列が入り組んだ演出の上、物理学の専門用語とか長々とした公聴会の場面など英語がよくわからなかったが基本的なストーリーはシンプルだった

ケンブリッジで物理を学ぶオッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は実験が下手くそで教師に詰められてばかり、アメリカに戻ってからは天才ぶりを発揮。プリンストン大ではアインシュタインと親しく会話した
共産党員だった婚約者ジーン(フローレンス・ピュー)と別れ、キャサリン(エミリー・ブラント)と結婚。
当時ナチスがウランの核分裂実験に成功したというニュースが入り、アメリカ軍は原爆の開発を急いでいた。グローヴス准将(マット・デイモン)はマンハッタン計画のリーダーにオッペンハイマーを抜擢する。
ロスアラモスでのトリニティ実験は成功し、オッペンハイマーは英雄と祭り上げられる。しかしオッペンハイマーには自分の開発した兵器がどんなに恐ろしい悲劇をもたらすのかビジョンが見えてしまった。
そして広島長崎に原爆投下、オッペンハイマーはその報告映像を正視することはできなかった、、、
かねてよりオッペンハイマーに恨みを持っていたストローズ(ロバート・ダウニーJr)はオッペンハイマーがソ連のスパイとして疑われるように工作する、元カノが共産党員だったこともあり赤狩りの公聴会で厳しい
詰問をされるのだった、、、

オッペンハイマーは核分裂のビジョンなどが幻視できる人という設定、いろいろなビジョンが所々挿入される。
原爆の父として拍手の中登壇した際には聴衆の市民が焼けてゆく映像が見えてしまう。オッペンハイマー視点の描写はとても内省的であり、天才の頭の中を覗くような感覚。
演出上時系列が錯綜していて、過去がカラー、現在がモノクロだったりややこしさはノーラン節全開であるがなぜこのような錯綜する時系列にしたのだろうか

映画のように時間を制御できれば「後悔先に立つ」ことができるか、広島長崎の惨劇を幻視し原爆の開発がされなかった世界線になったかもしれない。

広島長崎の描写が軽いという批判も聞くけど、本作はオッペンハイマーの主観的な視点から描かれているので原爆投下を双方の立場で描くというものではない。逆にナチが核融合実験に成功したニュースを聞いたユダヤ人であるオッペンハイマーの絶望的な気持ちもなかなか日本人には実感が湧かないだろう。
戦争の全体像を描こうとすると日米で別の監督を立てる『トラ・トラ・トラ!』とか日本人キャストメインの『硫黄島からの手紙』みたいになるかな。ノーランは今回あくまでもオッペンハイマーの内面にフォーカスしたかったんでしょう
オッペンハイマーは原爆を作ってしまったことについて苦悩する、その点では反原発がテーマの映画だとも言われる。
ただそういう言い方もノーランの映画を単純化してしまっているように思う。
ノーランってテクノロジーの進歩についてはメチャポジティブな人だと思う。だからテクノロジーそのものは悪くなくて、それを運用する人間が悪いという風に考えているふしがある。
もしより高次の生命体が人間を指導したら原子力を平和利用できるかもしれない、『インターステラー』の量子暗号による重力制御ももし軍事利用されたらとんでもない兵器ができちゃうだろう。

残念ながら今の地球には高次の生命体も来てくれないし、次の次元に進化しそうもない。
ノーランは絶望的な気持ちになったのか、ラストの地球を覆い尽くそうとするプロメテウスの炎は『博士の異常な愛情』のラストと呼応する
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