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時の解剖学のshabadabaのレビュー・感想・評価

時の解剖学(2021年製作の映画)
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近年、ある一つの空間において地層化された時間を主題に据えた映画は、メジャー、インディー問わず、物凄く増えている気がする。メジャーな例で言えば、クリストファー・ノーラン『インターステラー』、デヴィッド・ロウリー『ア・ゴースト・ストーリー』、三宅唱『呪怨:呪いの家』、インディーな例で言えば、ベン・リヴァース『ゴースト・ストラータ』、アピチャッポン・ウィーラセタクンの諸作品、etc…。こうした流れは、多分、Liminal Spaceとかスローシネマといった近年の美学的潮流、さらには、心霊・オカルトブームと関係している気がするが、このことは、どっかで詳しく論じたいと思っている。
『時の解剖学』は空間において、というよりは1人の身体において地層化された時間を主題として扱っている点が新鮮だった。妻の介護がなければ生きていくこともままならない男の身体には、タイの血塗られた歴史が累積しているであろうことが、明確には描かれないものの、断片的に語られる。そうした時、妻の懸命な介護には、単純な愛の証などではなく、その歴史を絶対に風化させないという狂気じみた執念が背後に見え隠れする。その一方で、観客の時間感覚は絶えず希薄化され、夢のような映像の中で現実と虚構すらも融解していく。一方には、時間への執念があり、もう一方には、抗い難い忘却がある。
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