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べネシアフレニアのドントのレビュー・感想・評価

べネシアフレニア(2021年製作の映画)
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 2021年。反観光客憤激大殺戮! イタリアはベニスに旅行に来たスペインの浮かれポンチのヤングたち、折しも仮面祭りの最中の街で道化師姿やペスト医師マスクの男に襲われてコラーッ! ザクーッ! されるおおらかサスペンス。
「スットコドッコイな話なのに真面目に撮られている、けど何かヘンなので、どういう顔をしたらいいのかわからない」という作品を編み出してくる稀有な男、イグレシア監督作らしい内容であった。
 まずオープニングからして昔あったイタリア映画のジャンル、血みどろサスペンス「ジャーロ」への愛が満載。なるほどジャーロですねと頷いているとウェ~イしていた主人公たちが到着した途端に「観光客が街を汚す! 帰れ!」と叫ぶデモ隊に出迎えられ、あっ社会派かな? とか思ってたら冒頭で人を殺していた殺人道化師がボートのおっさんに「お前降りろ!」と殴られて放り出される。このへんからだいぶ変な顔になってくる。
 夜にはかっこいいペスト医師マスクが出現して期待が高まるが、翌朝は「同宿していた友達が失踪するも、ホテルの者はそんな人知らないと言う」なんてなパリ万博恐怖譚に突入し、住民も警察官もみんな邪悪に見えてきたりする。そんな中で殺人道化師はバカみたいな罠で観光を殺したりする。なんやこれ。路上の殺戮が「あっ街頭劇だ~!」「すごーい本物の血みた~い!」で済まされて皆スマホで撮ってる場面も、果たして笑いなのか皮肉なのか両方なのか。
 スピーディーだし、それっぽいモノや展開をがしがし繰り出してきて観るものを引っ張り回すスタイルはいつも通りと言えるけれど、どうにも牽引力というか「色々出してるけど、この映画はこれで行くからな!」という芯がないため、全体に細い感じがするのである。
 殺人道化師もいわば「飛び道具」だったし、終わり方も「あっ、盛り上がってきたのに、こう終わるん……?」と肩透かしを食らった。真面目なテーマや幾ばくかのウェットさと、首モゲとかデス操り人形なんかのジャーロ要素の同居ぶりがせせこましくて、映画として小ぶりに終わってしまった印象がある。
 とは言えイグレシア味(み)はあったし、イグレシア味とジャーロの合体によってその場しのぎ的に雑に流れていく(ホテルの宿泊記録は?)(地下のパーティ会場は結局どこなんや?)展開により珍妙なテイストが加わっていて、ワンアンドオンリーな味わいを楽しむことができた。あとペスト医師マスクね、あれかっこいい。あれ欲しいッスね。
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