真一

マイスモールランドの真一のレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.2
 日本で育ち、日本語を話し、日本以外に行き場もないのに、日本政府から滞在許可を打ち切られてしまった女子高生のサッちゃん(サーリャ)。そんなサッちゃんのリアルな日常描写を通じ、難民問題に無関心な日本社会の実像を浮かび上がらせた良作です。

 埼玉県川口市に暮らす在日クルド人のサッちゃん一家は出入国管理局を訪問した際、担当者から「難民申請は却下されました」と告げられる。この瞬間、サッちゃんらの在留カードは無効になる。

 在留許可がない外国人は原則、収容施設に閉じ込められる。ただ身元引受人がいるなどの条件を満たせば、就労禁止といった厳しい制約の下、収容施設の外で過ごすことができる。これが「仮放免」だ。もしルール違反が発覚すれば、仮放免は取り消され、収容施設に放り込まれてしまう。

 ルールの中でも悪名高いのは「仮放免者は自分が生活する県から出ていけない」という条項だ。だからサッちゃんは、小さな埼玉県の外に行くことができない。彼女にとって埼玉と東京の県境は、越えられない「国境」なのだ。

※以下、ネタバレを含みます。

  「仮放免者」となったサッちゃんは、バイト先の店長から「不法就労されては困る」と言われ、クビに。また父親は不法就労がばれて、収容施設に送られてしまう。底を着く生活費。大家からの立ち退き要求。成績優秀で小学校教諭を目指すサッちゃんが、生きるために選んだ最後の道は、パパ活だった…

 本作品では、日本社会では善良な部類に入る人々が、無意識のうちに排他的で差別的な言葉をサッちゃんにぶつけるシーンが多く登場します。

「日本語、上手ですね」
「どこの国の人?」
「いつ国に帰るの?」

 これに対し、無表情で「出身はドイツ」などと悲しいウソを着くサッちゃん。本作品は、彼女を絶望の淵に追い込んだ差別大国・日本のおぞましい現状を、観る人に突き付けます。

 ご存知の通り、SNS上では、川口市などで暮らすクルド人を犯罪集団と決め付けて「不気味」「怖い」「とっとと出ていけ」と中傷する醜悪なヘイトスピーチが溢れています。先日は極右団体が現地に押しかける騒ぎも起きました。このままだと、百年前の朝鮮人虐殺と同様のジェノサイドを繰り返してしまうのではないかと憂慮します。

 危険な排他主義的ムードが広がる今だからこそ、多くの方々に本作品「マイスモールランド」を観ていただきたいと思います。
真一

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