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遊撃 映画監督 中島貞夫/遊撃〜「多十郎殉愛記」外伝〜のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 『多十郎殉愛記』という映画は中島貞夫にとっても、日本の時代劇にとっても随分久しぶりに誕生した力作だった。確かに製作費の関係で昭和の頃のような時代劇には劣るが、何より主人公を演じた清川多十郎(高良健吾)の殺陣の技術には、一夜漬けでは到底体得できぬ挙動とニヒリズムが確かに感じられたのだ。2018年、『多十郎殉愛記』を制作する東映京都撮影所。大正末年に阪東妻三郎が同地を切り開いて以来、90年を超える歴史を有する撮影所で、東映太秦映画村と言えばわかり易いかもしれない。当時83歳だった中島貞夫監督が、主演の高良健吾や多部未華子たちキャスト、スタッフらと映画を撮っている。その映画作りにかける情熱について、古くからの友人・倉本聰(脚本家)や、かつての仕事仲間・荒木一郎(俳優/作家/歌手)、三島ゆり子(女優)、橘麻紀(女優/歌手)、高田宏治(脚本家)、教え子の熊切和嘉(映画監督)らが語る。 『遊撃 映画監督 中島貞夫』のタイトルはワイズ出版から出版された上下巻1000ページにも及ぶ名著『遊撃の美学―映画監督中島貞夫』からの影響だろうか。まぁとにかく大監督・中島貞夫のことだから誰に聞いても面白い話しか出て来ない。

 東映京都撮影所の技術の継承が気がかりだった中島貞夫が『極道の妻たち 決着』からおよそ20年ぶりにメガホンを取った『多十郎殉愛記』には今の時代劇への危機感がありありと感じられる。だが20年の間に盟友たちは次々に天国へと旅立った。20年ひと昔というが、この空白の時間に受け継がれなかったブランクがそのままジャンル映画としての時代劇のダメージになっている。プロの殺陣士がどこにもおらず、製作資金は吉本興業からの調達で、吉本興業の大﨑会長が売れてない芸人を集めてチャンバラの稽古をさせ、モノになると判断した若手を使ってやってくれと。83歳の監督のことだから何か起きては大変だから、代わりを務められる教え子の熊切和嘉を助監督として呼んでいるのもいかにも吉本らしいリスク・マネージメントだ。大阪芸術大学学長時代の教え子だった山下敦弘も普通に呑みの席に出て来る。クランク・イン前の製作日数のやりとりには中島監督も憮然とした表情で、それでは高級な絵は撮れないよと眼光鋭く言ってみたり、映画に対する強いこだわりが随所に見られる。特に真剣なのは殺陣の稽古という名のオーディションで出演者を選ぶ場面。まさにあの頃のプログラム・ピクチャーを束ねた職人としての矜持が、鋭い眼光からは伝わって来る。88歳で亡くなった中島貞夫監督にあらためて哀悼の意を表し、謹んでお悔やみ申し上げます。
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