小

キリング・オブ・ケネス・チェンバレンの小のレビュー・感想・評価

4.0
異例のヒット中らしい映画『福田村事件』と同じく、恐怖心を抱く善良な個人が集団になると殺人をも厭わなくなることを映しているけれど、衝撃度、緊迫感、気分が悪くなるという点では本作の方が遥かに上。

意識または無意識に黒人を「異質なもの」と捉える(差別する)武装集団(白人警察官)が、誤った情報(誤解)によって恐怖心に火が付き、無実の黒人を殺害した事件の90分をほぼリアルタイムに再現する。

中学教師から転職して間もない警察官が冷静に対処するよう促すが、「犯罪が起きたらどうする」という恐怖心を前にすると次の言葉を飲み込むしかなくなってしまうのは、未だ生の本能を理性で抑えられない人類共通の現象。

『福田村事件』との違いを感じるのは、異質なものに対する差別心の強度。何故、差別をやめられないのかといえば、恐らくシリア内戦と同じ構造で、黒人に仕返しされるかもしれないという恐怖心が白人にあるからではないかと思う。だから「こっちの都合でいつでも殺れるんだぞ」ということを示しておかないと不安なのだろう。

法律などによって差別をなくす努力をしていると思うけど、根本的には白人が黒人に対する恐怖心を克服しない限り、白人警察による黒人殺害や冤罪の悲劇は繰り返されるのではないか。

しかし、白人の恐怖心を和らげる良い方法を自分は思いつくことができない。やはり、恐怖に支配された集団は殺人、虐殺、戦争を引き起こすことを繰り返し繰り返し広め、そのことを心身が嫌悪する人が増えていくことに期待するしかないのかもしれない。
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