スワヒリ亭こゆう

アウシュヴィッツの生還者のスワヒリ亭こゆうのレビュー・感想・評価

アウシュヴィッツの生還者(2021年製作の映画)
2.5
バリー・レヴィンソン監督。この名前よりも『レインマン』の監督の方が分かりやすいかも。
そんな監督の新作というよりも、タイトル『アウシュヴィッツの生還者』の方が興味深いですね。
ホロコーストの映画というのは人間の悪しき歴史を繰り返さない為に見返す必要を僕は感じています。勿論、映画じゃなくても良いんですけどね。

本作は実際の人物の伝記を基に映画化したらしいです。
ハリー・ハフト(ベン・フォスター)はユダヤ人でナチスによりアウシュヴィッツ収容所に連れていかれ、収容所に連れてこられたユダヤ人同士でボクシングをしていたらしいです。ナチスの賭けの対象になり負けたら殺される。勝つしかない。けど勝ったということはユダヤ人の同胞は殺される。
そういうあまり表には出てなかった事実を映画化したんですね。

本作はハリーが生き残りアメリカでボクサーとして活躍してる時代とアウシュヴィッツ収容所にいた時代を両方描いています。ボクサー・ハリーの活躍とユダヤ人・ハリーの回想譚になっているんです。
ですが僕はホロコースト映画としても、ハリーのボクシング映画としても、どちらも凄く中途半端に感じてしまいました。従来のホロコースト映画の様な怒りや悲しみ、絶望感。そういった負の感情が湧いてくる前に話の展開がアメリカでボクサーになったのハリーに戻ってしまうので、ずっと僕の心のピントが合ってない状態が続いてしまい、感情の置き所が上手く見つからなかったです。
ボクシング自体が僕は凄く好きなのも理由のひとつかもしれません。ハリーの相手に、あのロッキー・マルシアノが出てくるのも何だか変な感情になってしまいます。

ひとつ本作の大きな縦軸にハリーがアウシュヴィッツ収容所に連行される前に愛し合っていた恋人レアという存在がいるんです。
そのレアの安否が分からないまま、ハリーは何とか生きて再会する為に収容所でもアメリカでも拳ひとつで生きてきたんですよ。
ですが、そのレアという恋人が話に上手く活きてなくて、正直言って脚色に失敗したパターンでしょうね。

ハリーが賭けのボクシングをして同胞にボクシングで勝った。それは同胞を殺したも同然なんです。
そこの描写ですけど、初めて収容所で賭けボクシングをした時にどう思ったのか?をもっと描写を丁寧に詳しく描いて欲しかった。
生き延びてよかった感情もあるし、同胞を殺した罪悪感もあるし、感情が麻痺してしまい何も感じなかったかもしれない。どうしたって悲劇なのは変わらない。それでもホロコースト映画を撮るならばそう云った心情を描くべきなのかなと思いました。

それとアメリカに行ってからのハリーの話がやたら面白くないのも本作がイマイチの理由です。
ボクサーとしてロッキー・マルシアノに戦った。それは連戦連勝のロッキー・マルシアノと戦えば話題になって、もしかしたらレアはアメリカにいて、自分の試合に気づくかもしれない。それがハリーの狙いなんですけど、その試合に対して執着心が見えない。負けて当たり前って感じなんですよ。
ロッキー・マルシアノに勝って、チャンスを掴みその後も勝ち続けて自分がチャンピオンになればレアに気づいてもらえるとはならないんですね。
それが凄く残念でした。

本作で唯一、褒めるならばアウシュヴィッツ収容所から生きて帰ってきて良かったね。ではないというのが分かりました。
その後も収容所の事はトラウマとして残り悪夢にうなされ続けるんです。
収容所を出てアメリカに来ても苦しみは続いてるという事を忘れてはいけません。
日本でも今でも原爆の後遺症に苦しむ人はいるんです。先日、SNSで話題になった或る映画。
その騒動は僕は悲しいし悔しいです。それでも何が?これの何がそんなに騒ぐ事なの?って言う人もいる。日本人に。馬鹿にされてる事も気づかない。原爆を落とされて尚も馬鹿にするのか…
話は逸れましたが、明日は終戦記念日。
戦争について映画を通して考えるキッカケになれば良いですね。