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ルッツ 海に生きる/ルッツのdm10foreverのレビュー・感想・評価

3.8
【禁漁期】

「dm的映画祭 in Obon」のラストを飾ったのがこの作品「ルッツ 海に生きる」でした。
これまたサツゲキから徒歩3分の場所にあるシアターキノにて、ちょっぴり疲れ気味の頭にローカルスイーツの「月寒あんぱん」で糖分を注入して最後の戦いに挑むdm。

「今年の夏は結局一回も海に行けなかったな~」というボヤキも最早3年連続。
もともと出不精な一面もあるdmですが、子供も小さいうちにいろんなとこに行っておきたいな・・と思いつつも、やっぱりコロナも頭を過ぎってしまって、知らず知らず自分自身の行動にも制限をかけているのかな~と感じるこの頃。

そうこう言いつつも、子供の頃から「泳げない」のではなく「泳がない」というスタンスを頑なに崩さないdmですが、とにかく水が苦手。
公園で子供が遊ぶような「ちゃぷちゃぷ広場」では無双のように振舞えても、学校のプール授業などではプールのヘリに手をかけてバタ足の練習のままひと夏が終わるというデジャヴのような6年間。
なので、dmは水難事故には遭わない自信があります。
それは「泳げないのに大丈夫?」ではなく、そもそも水に近づかないから(笑)
まぁ仮に自分の子供が溺れてたらさすがにどうにかするだろうけどね・・。

ということで、本作はそんなdmにとっては憧れ込みの「海の男」の物語です。
とは言いつつも、ここで描かれるのは「逞しさ」とも「荒くれもの」とも「女は港」ともちょっと違っていて、かなりビターな現実が漁師さんたちの生活にも差し迫っているんだろうな・・・っていう事を実感してしまうような、決して絵空事と言い切れないようなお話でした。

いわゆる小船に乗った漁師が網を投げて魚を獲ってそれを売る・・・。
リスクやコストの割りにリターンがあまり見込めない漁法。
さらに地球温暖化や乱獲の影響で年々漁獲量は右肩下がりになっている。
それでも「漁」で生きていくのなら、いっそのこと大型のトロール船に乗って遠洋漁に切り替えるなり、養殖を行って安定収入を目指すなりしなければ「海の恵み」だけで暮らしていくにはあまりにも現実は厳しい・・・。

~~主人公のジャスマーク(なんと本名、本職で出演のいわゆる「本人登場」)は、妻のデニスと幼い息子のエイデンと三人で慎ましくも仲睦まじく暮らしていた。
ジャスマークは曽祖父の代から受け継いだ伝統の漁船「ルッツ」に乗って漁師をして生計を立てているが、なかなか思うように魚は獲れない。
しかも、最悪なタイミングでルッツの船底に水漏れが発覚し、このままでは沈んでしまうため修理が必要となってしまう。
そんな頃、エイデンの定期健診で訪れた病院で告げられる事実。
「お子さんは発育障害の傾向があります。まずは高カロリーのミルクを与えて。あと言語聴覚士のセラピーを・・・」
どんどんとお金ばかりが飛んでいく。
妻のデニスは「プライド」にしがみついて中々現実を見ようとしないジェスマークに苛立っていた。
(なんとか安定した職業について家族を養って欲しい)
何度話し合っても平行線のままジェスマークは「海」に拘り続ける。
しかし、どんなに働いても一向に報われることのない状況に、だんだんフラストレーションを募らせたジェスマークはある決断をすることとなる・・・。

まず、この海(の仕事)を『不安定のメタファー』として、「このまま不安定な海で働き続けるのか?」という自問自答に置き換える。
その上で、万策尽きたジェスマークが手を出してしまう禁断の仕事とは「漁師の仕事と対立していくような闇ブローカー」。
彼は「不安定な海」を離れ、同時に自分のプライドでありアンデンティティでもある「漁師」という仕事にも自分から泥を塗る道に進んでしまう。

それは、単純に「プライドをとるか、安定をとるか」というだけの話ではなく、まるで踏み絵のようにジェスマークの心を締め付ける。
しかし、そこに待っていたのは漁師をやっている時には得ることのできなかった「安定」だった。

昔からの漁師仲間もいるこの町で、漁師というプライドを捨て生きていく。
(それならいっそのこと、別の町にでも行って心機一転・・・)とはならない。
何故なら、彼が手を染めた闇の仕事は、同じようにプライドを捨てた漁師の存在がなければ成立しないものだったから。
彼は家族との安定した生活と引き換えに、逃れることの出来ない「海の呪縛」を受容れたのだ。

確かにジェスマークの「優柔不断」が原因とも言える部分もある。
よくも悪くも職人気質であるジェスマークは、他人からの助言を素直に受容れられない一面もあって、それが結果的に事態を悪化させる一因でもあったんだけど、もうそんな「気質」や「プライド」だけで食っていける時代ではないんですよね・・・。

デニス(奥さん)の実家が裕福っていうのも、彼の自尊心を傷つけたのかもしれないけど、そこはもうちょっとうまく立ち回らないと、結局自分たちだけじゃなく息子まで影響されてしまうからね・・・。

確かに距離感は大事だけど、結婚したら相手の親も自分の親以上に大切にしなきゃいけないしね。
欧米系の価値観って、もっと「ファミリア」って感じで家族を大切にするっていう印象があったんだけど、必ずしも全部が全部そうというわけでもないっていうことはよくわかったよ。
まぁうまくいかない事だってあるよね、人間だもの。

真っ青な海と地中海テイストの町並みの映像はそれだけでも映画の評価が上がるくらい美しい。
物語はとても現実的な題材でありながらも、どこか寓話のようなほろ苦い後味も残る作品でした。
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