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ベルファストのカーズWSAのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.5
ベルファスト出身であるケネスブラナーの半自伝的な映画とのこと。

アイルランド島の北東部、ベルファストを首都とした北アイルランドはイギリスを構成する地域のひとつであり、そもそも英国派の支配を確かなものにするために成立した地域。

そしてベルファストに住む多くの人はプロテスタントで、長い間カトリックの人たちは二流の扱いを受けていた背景があるようです。

最近は北アイルランド全体でカトリックがプロテスタントを人数で上回った、なんてニュースもあったり。

この映画の時代よりも前の1940年代頃、ベルファストにカトリックから支持されたベルファストセルティックというサッカークラブがありましたが、同じベルファストを本拠地とするプロテスタントのリンフィールドFCとのダービーマッチで暴動が起き、リーグから撤退する、という悲しい出来事もあったようです。

ちなみにこの兄貴分的チームが古橋旗手前田大然など、かつては中村俊輔もいたスコットランドのグラスゴーセルティックです。やはりグラスゴーにはプロテスタント系から支持されるレンジャーズというチームがあり、その2チームの対戦はオールドファームダービーと呼ばれ、世界でも一、二を争う激しさなんて言われてたり。

この辺はキリがないのでこの辺で。

この地域、単に宗派の違いってだけでなく、政治もスポーツも宗教と強い結びつきを持ってますし、一口にプロテスタント、カトリック、と言っても実際に過激派は一部、UVFとかIRAとか互いに武装してって最悪の結果になってしまうんです。

メッチャクチャ重く複雑な事柄を、そこに住む少年を通して描くことで中和され直視しやすくなってます。一方できちんとそのときに起きた出来事を個人の視点で見せてくれる素晴らしい映画だと思いました。

キアランハインズという人とジュディデンチのじいちゃんばあちゃんが素敵。
じいちゃんの、どこに行ってもおまえはおまえだ、みたいなセリフが、このベルファストの背景を考えるとすごく大切に聞こえました。

あとそれから奥さん役、カトリーナバルフ、というんですね。背が高くてメチャクチャ美しい。これは久しぶりにビビビと来ました。久しぶりでもないか。しょっちゅう。

主人公の少年バディくんが観に行ったり家で観たり、作中にいくつも映画が出てきて楽しい。

あなたが私にくれたもの、ラクエルウェルチの映画の券。
恐竜とか怪獣大好きな長男が幼稚園くらいの頃、昔の恐竜映画観るか?、って言ってラクエルウェルチ見たさに恐竜100万年観せたことあります。
やっべえ10年越しでカトリーナバルフに突っ込まれるとは。
でっかいトカゲがチョコチョコ動くやつ。

とか思ってたら不意にグレイスケリー。不意には反則だろ。目を奪われる、とはこういうことか。
あなたが私にくれたもの、真昼の決闘の映画の券。

一応1998年に和平合意し紛争は終わり、となりましたが、そこに住む人々の間にはまだ垣根があるようです。

冒頭、カラーで現代のベルファストの景色が映り(タイタニックホテル!)、そこからモノクロになって物語が始まります。

カラーからモノクロへ切り替わるときに映る壁がたぶんピースラインってやつなんでしょうか。カトリックとプロテスタントの居住地を分ける目的で今もってそこかしこに見られるやつだと思います。

カラフルな現代のベルファストでもこの問題が綺麗に解決してるわけではない、というメッセージなのではないかと思いました。

余談ですが、グラスゴーセルティックに中村俊輔が所属していた頃、チームメイトに北アイルランド代表でニールレノンという選手がおりまして。キャプテンもやってた。

セルティックというカトリック色の強いチームにいるだけでも気に入らない過激な人達は、南北統一したアイルランド代表で戦いたい、なんて発言をしたニールレノンを脅迫。北アイルランド代表でプレーしたら殺す的なことを言われた結果、北アイルランド代表の試合には出なくなった、なんてこともあったり。

この映画ではどっちが良いも悪いもなく、各々の問題として描いてます。

クリスマスプレゼントでサンダーバード、007、アガサクリスティなどからのバディくんのイヤダイヤダ!はちょっとウルっと来ました。

コドモってだいじょぶそうに見えても心の負担は蓄積されてて、何かをフックにバッと出てくるのがとってもよく表せてると思いました。

チキチキバンバンはローソンのCMを思い出す。高嶋弟。
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