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Sundown(原題)のaudiospongeのレビュー・感想・評価

Sundown(原題)(2021年製作の映画)
4.0
ミシェル・フランコが2020年に撮った「ニューオーダー」に続き、2021年に脚本、監督を務めた作品。あらすじ等は、他の方に譲るとして、本作に関しての監督のインタビューがなかなか面白かったのでそちらを中心に紹介します。

「今、私が最も忌み嫌うのは、現在配信でよく見かけるような、もう既にある映画と似たような映画をまた作ること。月並みな型にはまった映画を作るというのは、全く同じ映画製作の手順をそのまま一通り繰り返すようなものではないのでしょうか?それに何の意味があるのかな、、、そんな事をするぐらいなら、映画を作らない方がいいし、そんなモノを作るのにお金を使ってくれるなと、そして人の時間を無駄にするなと思うよ。」
とはっきり(笑)毎作品、見たことないものが見られるのも納得の発言です。

序盤Tim Roth演じる主人公がみせる行動の違和感から、独特のペースで映画に引き込んでいきますが、これは以前から監督が「観客を信用している」として、極力説明や感情の安易な誘導を監督側でしてしないのところに起因していると思います。

登場人物同士の関係性や、どういった性格なのか?という説明が他の映画に比べ徹底的に排除されているのは
「説明を盛り込んだ劇中のキャラクター同士の会話よりも、キャラクターと観客との対話を重要視している」からとのこと。これを受けてインタビュアーが、”主人公が初めはどんな人間か判断がつかず、会話の端々の情報でこちら側が判断していき、人となりが見えてくる過程は、実際の人生でランダムに出会う人々と対面する時と同じような状態だった”と答えると
「それは私が得ることのできる、最高の褒め言葉ですよ」と喜ぶ一幕も。情報が少ないことで観客はより一層、映画の登場人物に対峙するようになり”対話”をする、ということを促しているのですね、、、

技術的な部分で今回は、”順撮り”での撮影だそうで、序盤から静かに引き込まれる空気はTim Rothが上手いのもありますが、この撮影方法も功を奏していると思われます。
他にもビーチのシーン等に映り込む人々は役者、エキストラでもなく、ただそこにいたリアルな人たちとのこと。(笑)大変ながら面白いものが撮れたと監督本人はご満悦のようです。
前作に続き、既存の楽曲使用のみで劇伴は無し。監督の言うところの感情の誘導をしない、という意味でのチョイスかと思われますがお見事です。

こういった全般的に観客を信じてゆだね、作り手側での説明を減らすという、現在の映画製作の中では挑戦的な方法で映画が作られていることについては、、
「多くの映画は間違った方法で作られているように思います。そして多くの脚本は書かれた時点では興味深いものが多いはずだが、プロデューサーやその他のお金を出す人間の手により、現場仕事に落とし込む段階で、本来のエッセンスが残ってない、つまらない映画作品になってしまうことが多い、誰しも安牌をとりたがるからね。映画作品は監督達にもっとも近くにあるべきで、監督達の好む形で残るものでなくてはならないと思っているよ。」とも述べています。
この発言、シン・ゴジラに取り掛かっている時の庵野さんの話が頭をよぎりました。(庵野さんの初期プロットに東宝、プロデューサー側が各所からの要望を足して脚本(ゼロ稿)が作られた結果、監督の本来のアイディアから大きく外れた恋愛要素や人間ドラマが加わった脚本が出来上がってきており、「この方向性で進めるのなら僕である必要がないので降板する」と言い放ち、元のプロットを貫いたという話)

やりたいことがはっきりしている監督(とそれを信用して映画を撮らせるスタッフチーム)なので、今後も突き抜けた作品を作ってくれそうですね、次回作もとても楽しみです。
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