旅するランナー

幻滅の旅するランナーのレビュー・感想・評価

幻滅(2021年製作の映画)
4.7
【文藝心中】

バルザックの小説「幻滅―メディア戦記」を「偉大なるマルグリット」などのグザヴィエ・ジャノリ監督が映画化。
19世紀前半のフランスを舞台にしてますけど、現代的要素を多く含んでいます。
金儲け至上主義、フェイクニュース、そんなジャーナリズムへの幻滅が描かれます。
ペンは剣よりも強いが、お金の前にひれ伏す。

バンジャマン・ヴォワザン(「Summer of 85」)、
セシル・ドゥ・フランス(「モンテーニュ通りのカフェ」の頃から好きです。美しい歳の取り方してる)、
ヴァンサン・ラコスト(「アマンダと僕」「今宵、212号室で」で最近印象に残ってます)、
グザヴィエ・ドラン(俳優としての素晴らしさを見せる)、
ジェラール・ドパルデュー(フランス映画界の重鎮、「終電車」「隣の女」の頃と重量差が大きい)など、
豪華メンバーが集結しているのも見どころです。

文学を愛し、詩人としての成功を夢見る田舎の純朴な青年が、パリでの生活のために新聞記者となり、恥も外聞もなく金のために魂を売る同僚たちに感化され、次第に強欲と虚飾と快楽にまみれた世界に身を投じていく。
スピーディーな語りで展開される、そんな熱狂の時代に飲み込まれていく、文学青年の成功と挫折。

青年と恋人のシーンで流れる、シューベルト/歌曲集「白鳥の歌」から「セレナーデ」が、先行きを暗示するかのように巧く使われています。
その他にも随所に流れる、
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲「不安」第2楽章、
モーツァルト/弦楽三重奏のためのディヴェルティメント第4楽章、
シューベルト/弦楽三重奏曲第1番第2楽章
シューベルト/ピアノ五重奏曲「鱒」第2楽章、
バッハ/4台のチェンバロのための協奏曲など、
クラシック曲が、この映画の雰囲気にマッチしています。

古典小説の映画化は退屈なことが多いけども、この映画は全く幻滅しませんでした。