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リフレクションのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

リフレクション(2021年製作の映画)
4.7
「何か評判かなり良いな。ウクライナ人監督か。」位の前情報しか持たず、空き時間に映画へ。

ウクライナ人監督が、現在進行形で起こっているロシア-ウクライナ紛争をドキュメンタリータッチで描く社会派映画かと思っていたけど、印象が全然違う。

基本、固定カメラの長回し。時折り手持ちカメラで人を追うがやはり長回し。
冴えわたるセンスで拘り抜いたワンシーンワンカットを何度も繋いでいく、表現主義全開のアート作品。
ロイ・アンダーソン「ホモ・サピエンスの涙」、エリア・スレイマン「天国にちがいない」なんかと並べて語りたくなるような作風。

《ロシアによるクリミア侵攻が始まった2014年、ウクライナ東部ドンバスの戦線で捕虜となり、悪夢のような非人道的な行為を経験した従軍医師のセルヒーが、首都キーウの街に帰還した後、失われた日常を取り戻そうと苦闘する姿を、娘のポリーナとの触れ合いを軸にして描いていく。》改めてあらすじ見てみると、社会派ルポルタージュみたいなものを普通、想像させるような内容。

実際、拷問シーンのゴア描写は見るに耐えない程に痛々しく生々しい。ロシア軍人が躊躇いなく作業のように痛めつけるのも、ロシア軍の蛮行を糾弾してもいるだろう。もっと深いところには反戦という主題も持ち合わせているが、
この題材に対してこの形式か!という驚き。

特徴的な固定カメラによるアングルは、シンメトリーなカットで真ん中に大きくガラス戸・窓ガラスを配置する。
観客はガラスの向こう側に何が起こるのか具に観察する。
冒頭のシーンでは日常の場面ながらガラスの奥で子供がサバイバルゲーム、戦場さながらの爆音が、不穏な運命を予感させる。

ある場面では、セルヒーの部屋にある大きな窓ガラスを正面に捉える。突然鳥がガラスにぶつかり落ちていく。セルヒーの娘は窓から下を覗く。窓ガラスには鳥が当たった跡。
この跡が何に見えるのか。跡が消えるのか消えないのか。コンセプチュアル・アートの域に達している。

その他にも"ある車"に記載された「ロシア連邦人道援助部隊」文字の大写しの政治性。
レントゲン室でのドローン。ラストの足音当てゲーム。
戦争に対しての日常の中の、些細だけど特別な瞬間を切り取るセンス。
凄い才能が出てきた。
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