こつぶライダー

ある男のこつぶライダーのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.5
亡くなった夫は戸籍上全く別人になりすましていた…というミステリアスな展開から、その夫Xこそが『ある男』かと思いきや、次々に出てくるある男と呼べる人物。

普通に流れる生活の雰囲気の中に、張り詰めた空気感が漂う。サスペンス性というよりは、人間の闇の部分を描いた感じが突き刺さった。

序盤の謎解きから、次第に話は人の消したい過去について考えさせていく。
誰しもトラウマだったり、思い出したくもない経験をしている。それが洗い流せないレベルで染み付いた人物たちがどんな選択を取るのか。
ここであまり共感できない人は、きっと優しい人に囲まれて何不自由ない生活を送ってきたのかな?例えば、劇中の妻夫木聡義父母とか。

安藤サクラさんは抜群の安定感があり、喪失や失意の心情を内に秘めながらも息子と向き合っていく母のたくましさを感じさせた。
窪田正孝さんは、あの狂気の目。表情から殺気を感じる怪演。この方はこの手の役が上手すぎる。
かなり主軸となる弁護士役の妻夫木聡さんは、個人的には良い意味で可もなく不可もなく。普段から素晴らしい妻夫木さんだからこそ安定しておりました。

物語は2時間サスペンスより展開は少なく、無理にねじ曲げた感じを出さず、割とわかりやすい流れで進む。
しかし、演技者の表情を長回しで追うシーンや、効果音を使った緊張感ただよわせる静かなカット多めで、観客の心に訴えかける効果を感じた。

結構重たいけど落ちるような作品ではない。ちょっと自分の人生や、人に対する接し方や偏見について考えるきっかけになったかもしれない。
いつか息子にも観せたい作品です。
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