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ある男のeulogist2001のレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.8
原作を読んでいたので、鑑賞後の感想はどうしてもその比較が浮かぶ。けれど原作との比較についての言及は差し控えたい。

役者はみなさん演技力に定評のある方ばかり。キャラクター設定も申し分はない。
ただ関係性が過去から現在まで複雑で謎解きめいたミステリー仕立てでもあるせいか畢竟、説明的なセリフが多くなる。簡潔にしかし文学的な言葉を選ぶとやはりどこか違和感が残る。仕方ないのは分かるが少し残念。こうした点では文章のほうが有利なのは一目瞭然。

マグリットの絵が象徴的。本人の意志の及ばないところ、気がつかないところで反復や複製は宿命的におき、場合によっては嫌悪すべき負の遺産、しかも重たすぎれば、逃れ難く執拗にひとを苦しめる。

価値観や考え方がどうにも噛み合わない、親族の唾棄すべき犯罪歴という背景、根拠なき国籍差別。ひとが社会的に生きていくことには生物的にも社会的にも不可欠な関係性でもある。ただ時として自分自身の生をまっすぐに生きようにも無批判かつ無慈悲に世間や社会的な強い偏見が覆い被さる。

繋がる希望と繋がっていることの絶望。絆という言葉が安易に同調圧力混じりに用いられる風潮とも表裏だ。

ある男の哀しみ。それはあなた自身のことでもあり、未来のわたし自身かもしれない。
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