ドント

イノセンツのドントのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.3
 2021年。いや久しぶりに、痺れるような時間を味わった。自閉症の姉を持つ少女イーダが両親と共に越してきたのは巨大団地。姉と、姉にかかりきりの母、慣れない環境にムスッとしながらも、自分と似たような家庭のしんどみを抱えた子と知り合って遊びはじめた、は、いいのだったが……
 大友克洋『童夢』にインスパイアされた団地×子供×超能力映画。『童夢』がハイパー大好きな私もこの映画の脚色と出来には満足というか、原案からジジイや爆発などを抜いて子供世界の無邪気なシリアスさを足してサイキックスリラーにするとこの濃さになるのかよ、やめてくださいよ、勘弁してくださいよ、と悶絶しっぱなしであった。
 子供はアホで無邪気なのでよくないこと危険なことも平気でやってしまうし躊躇なく一線も越えてしまうだが、「アホで無邪気だからそういうことをやる」で済ますことなくこう、家庭環境とか子供ながらの葛藤、苦しみ、複雑な感情が拾われているため、映画に厚みと重みが付与されている。これが不穏で美的な映像と合わさって物凄いこととなっている。同時に、子供たちが小綺麗ではないのがまたいい。冒頭で主人公たる少女は車の窓に、舐めてベトついた飴を貼りつけて保管している。悪い子である。そういう感じで「子供」のリアルを描いている
 子供や知的障害(自閉症)者に「超能力」を与える手つきにわずかにヒヤリとするが、これ個人の能力はごくわずかなんですよね。共鳴、共振した結果力が増して、こういうことになっていく。そのあたりの描き方、その閉鎖的な感覚、「こどものせかい」として閉じている危うさが十全に生きていて、いやぁもうね、やられたなと思いました。日本のマンガ原案でこういうのを、外国から届けられたらね、やられたぜ、と。
 猫が死んだり開放骨折したり人が死んだり子供が死んだりするし、子供がつらい目に遭うし、物語としておそろしく救いがなく、「ワ、ワァ……ここからそっちに突き落としていくの……?」と数回ツーンとおそろしくなったので気軽に勧められるアレではないが、いや、よくできている映画でありました。これが脚色というやつよ……
ドント

ドント