グルジア山中の過疎した村の人々を撮ったドキュ。セリフほとんどなし。延々と彼らが作業している風景を撮っているだけなのだが、見入ってしまう。王兵『名前のない男』を思い出すミニマルさ加減だが、こちらは明らかに編集の映画。

グルジアのどこかの村のドキュメンタリーは冬に始まり春に終わることで円環を成す。映画には終わりがあるがこの営みには終わりがないかのように見える。しかし映された人々はほとんどがお年寄り。遠くない将来の村落の終わりが見えなくもない。かなり年配の男性も重労働をこなしている。基本的に男性は男性、女性は女性の集団になっていて、異性が混じって活動する場面がほぼ無い。葬式でも男性は棺かつぎ、女性は泣き女(役割で泣いてるのか悲しくて泣いてるのかわからない)と分かれてる。黒いケープで頭を覆い黒い服で雪の中をゆく女性たち。女性たちは皺だらけだが皆しみがなくて肌がきれい。大きな丸いハチャプリみたいなのを作ってかまどで焼いている。美味しそう。男たちは牛か何かのツノでできた杯で酒を飲んでる。そういや梅の実くらいの堅そうな実をつぶし蒸留酒を作っていたが、あれは何の実なんだろう。

ひとつのカットが短く10秒にも満たないカットがほとんど。でも気忙しくなく、流れるようにぼんやりと眺めてしまう。豚を屠るシーンのカット割は鋭敏になる。
インタビューをとったらしい滔々と話す人を映しながら、声は同期させず音楽をのせている。そういうカットがいくつかある。一生懸命話した本人らが観たらかわいそうかも。それに何を語っていたかの方が記録としては大事だったかも。たくさん一生懸命話している女性たちのほとんどは歯が無い。くろぐろとした口の中に音楽が吸い込まれていく。ほんのちょっとだけ話し声が入る(字幕に表される)カットがあるが、なぜそこを選んだのだろう。
冬からクロスディゾルブであっさり雪どけとなり、水門がひらかれて水が鮮やかに溢れ出す。ここではじめて男と女がともに活動する場面となる。彼らが演奏し踊るシーンにも違う音楽が同期される。質素で厳しい暮らしをしてる人たちが楽器の演奏できて踊れる技術持ってるのいいよなと思う。

豚の解体が強烈な喚起力を持って描かれるドキュメンタリーとしてリ・イーファン『郷村档案』やユスターシュ『豚』を彷彿とさせるが、ジョージアの雪景色で水流を食い止め、再び放出することで生まれるアクションの活劇はこの映画特有の主題だと見ていいだろう。作中で流れる音楽がジョージアの土地に住む人々の音声以上に優先されていたことにどうしても勿体無さを感じるが、この映画が映し出した画面と音のリレーをいつまでも味わいたいとさえ思う。