えびちゃん

ミカ・カウリスマキ/ママ・アフリカ ミリアム・マケバのえびちゃんのレビュー・感想・評価

4.5
どんな時に音楽を聴くだろうか。気分を上げたい時、緊張を和らげたい時、一日の終わりに心と体を解放させたい時。わたしは悲しいことがあったり、ストレスが溜まると早々に布団にくるまってただひたすら音楽を聴く。それで大抵なんとかなるので、「癒し」とはこういうことなのだなと体で感じる。
南アフリカ出身のシンガー、ミリアム・マケバ。祖国の南アフリカから追放されてアメリカに逃げて名声を得たけど政治的な歌詞がニクソン政権下で目をつけられアメリカからも追われ、ギニアに迎え入れられたけどクーデターでまた居場所を失い、その後欧州に逃れた。30年近く亡命を続けたり、娘や孫を喪ったり、母の死に目に会えなかったり、幸せ顔で歌う印象とは裏腹に辛く厳しい人生を生きたひとだ。
音楽とは癒しである。南アフリカでは祈祷師の語源は音楽だそうだ。ミリアムにはタイトルにも掲げられているようにママ・アフリカという愛称がある。ミリアムの娘ボンギのスピーチ、"ミリアムは国際的なアーティストというだけではない。同時に単なる母という存在とも思っていない。ミリアムはアフリカの母だ"。ミリアムの音楽を聴くことは南アフリカでは禁止されていた。それでもみんなこそこそLPを手に入れ、隠れて静かに彼女の音楽を聴いていた。厳しい時代を生きた南アフリカのひとにとって亡命しても心を寄せて南アフリカの惨状を訴え続け戦ってくれるミリアムは生き抜くための支えであり、心許す癒しだったのだろう。音楽は人を救うよな、と改めて思い知った。
アップテンポで情報量の多い作品だったけど素晴らしいドキュメンタリーだった。感無量。
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