えびちゃん

美しき仕事 4Kレストア版のえびちゃんのレビュー・感想・評価

美しき仕事 4Kレストア版(1999年製作の映画)
4.0
訓練、夜遊び、アイロンがけ。訓練、夜遊び、アイロンがけ…。同じ日々の繰り返し。
社会生活に馴染まず軍隊生活こそが生きやすいアイロンをかけたシャツのように折り目正しいドニ・ラヴァンの厳しさ。ラヴァンはぴょこぴょこ駆け跳ねる小動物的な印象が強かったからバキバキの肢体と突き刺すように冷たい眼差しはゾッとした。
バッチンバッチンぶつかり合う肉体の躍動と血管の動き。美しい体と正反対な醜い人間の心。ひとの奥底に渦巻いている目を背けたくなるほどの嫉妬、黒さを描いた作品をわたしは他に知らないな。人も自分も破滅に向かう嫉妬の愚かさ、恐ろしさ。ああいう類の暴力性、自分にないとは言い切れなくて心のやり場に困る。。
荘厳なオペラと対峙しあう上裸の男たち…これはドゥニ流のリヴェットの『ノロワ』なのか…?
肉体の美しさは女性に掛かりがちだけれど、自然界を見渡すとオスの美しさって圧倒的だよな。いま性別は二分できるものではないけれど、あえて言うとしたら、男性の肉体の創造は神のなした"美しき仕事"ではないかな。
全て手放して失って、生き直したかのような画面いっぱいに飛び跳ねるドニ・ラヴァンの開放感で幕を閉じなかったらきっと映画の世界から戻ってこられなかっただろうな。
『パリ、18区、夜。』の寄るべなさ、『ショコラ』の情感と緊張感は格別だったので、ちょっとだけ肩透かし。でもすごい作品だった。
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