ニャーすけ

私ときどきレッサーパンダのニャーすけのネタバレレビュー・内容・結末

私ときどきレッサーパンダ(2022年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

現時点での年間ベスト候補。
歴代のピクサー作品の中でも5本の指に入るかもしれない。

北米における中国系コミュニティの、良くも悪くも閉鎖的かつ保守的な価値観から解放される少女を描いた青春映画かと思いきや、実は彼女に最も辛く当たっていた母親こそがその因習に誰よりも深く傷ついており、それを知った娘が母親を救う親子愛の物語だと判明した瞬間、涙が止まらなくなった。
一般的に親は子のために尽くすものだが、儒教の影響か、中国ではむしろ子が親のために尽くすことこそが美徳とされている。それが中国系のステレオタイプであるスパルタ教育にも繋がっており、欧米では「前時代的である」と批判されることも多い。しかし、蹲って泣き崩れる少女時代のミンを優しく導くメイの姿は、前述の中国的価値観を逆手に取り、最も理想的な形で再定義してみせる。
この素晴らしすぎる脚本は監督のドミー・シーによるものだが、これだけ物語や人物に血が通っているのは彼女の実体験を元に執筆されているからだろう。その証拠に、1989年生まれのカナダ人であるシーは、2002年のカナダで13歳のメイとプロフィールがまったく同じだ。

メイが変身するレッサーパンダの姿は、思春期の自意識や反抗心、怒りや不安といった精神の混乱のメタファーとして非常にわかりやすい。そう考えると、「いやお前らクラスメイトがクソデカタヌキに化けてんのに呑気にカワイ〜♡ じゃねぇよ!」とか「あれだけ赤い月の夜を過ぎると人間の姿には二度と戻れなくなるとか散々フカしてたくせにいざとなったらテメーら簡単に変身するなぁ!」とか「いや確かにお前らの和解には泣いたけど親子喧嘩で街ひとつ崩壊させるのはどうかしてんなぁ!」とか、いろいろな描写が比喩表現の境界を超えていて、正直ツッコミ所は枚挙にいとまがない。
ただ、自分はもう本作を本当に好きになってしまっているので、こういうほつれの部分にすら愛嬌を感じてしまっているのも事実。ピクサーの過去作では「訣別」をキャラクターの成長として感動的に描いた作品が多かった(『モンスターズ・インク』『カールじいさんの空飛ぶ家』『インサイド・ヘッド』……って全部ピート・ドクターじゃねぇか!)が、メイが自分の欠点も込みでレッサーパンダを内在化するという選択もしみじみ良かったなぁ。
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