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ARGYLLE/アーガイルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ARGYLLE/アーガイル(2024年製作の映画)
4.0
 突然ミルクボーイの内海のような角刈りで決めたアーガイル(ヘンリー・カヴィル)が「ほな、コーンフレークと違うか。」とは言わないまでも、彼が登場した時点で興奮度MAXであったと申し上げたいマシュー・ヴォーンのめくるめく世界は、いかにも英国産スパイ映画の趣で、とにかく展開が体感の10倍速い。少しもたもたしているとあっという間に置き去りにされるその演出のけれんみというか、実写がCG化した成れの果てのような捨て鉢な体感速度はスローモーション、ハイ・スピードなんでもござれの総天然色映画というか、思わず金ぴか先生が登場しそうな金ぴか映画で、ある意味もの凄いオリジナリティというか強烈な匂いを放つ。手に汗握るベストセラーのスパイアクション小説シリーズ『アーガイル』の生みの親であるエリー・コンウェイ(ブライス・ダラス・ハワード)は、愛猫のアルフィーと共にあくまでスロー・ライフを楽しむベストセラー作家なのだが、大衆に絶賛される小説を5巻まで書き終えても母のダメ出しを喰らう辺りが非常に自己倒錯的だ。ほどなくして主人公である作家の驚くべき秘密が明らかにされるのだが、ジェイソン・フュークスの脚本は『キングスマン』シリーズと比較しても、随分攻めた脚本に仕上がっている。

 メタ・フィクション的な今作のテイストに私が真っ先に連想したのはロバート・ゼメキスの『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』である。人気女流小説家のジョーン(キャスリーン・ターナー)が誘拐された姉を助けるため向かったコロンビアで、伝説のエメラルドを巡る争奪戦に巻き込まれるという物語の骨子そのものをマシュー・ヴォーンは殆どアレンジしながら、マルチバース的な帰着へと我々観客を誘い込む。母親からこの小説が真の傑作となり得るのにはもう1章足りないと指摘されるエリー・コンウェイの夢そのものが胡蝶の夢で、犯罪者たちは彼女の夢のその一歩先に欲望と羨望の眼差しをを募らせて行くのだ。ファンの誰もが待ち望む新作を準備しながら、間一髪で彼女の救出者となるエイダン(サム・ロックウェル)と名乗る猫アレルギーのスパイこそが今作の肝で、まぁ正直な話、商業映画としては限界以上に攻めた脚本ではあるのだが、エンタメ作家としてのマシュー・ヴォーンのこれまでの経験値と活劇への確かな運動神経の良さで並外れたビジュアルで畳み掛ける。正直申し上げて、主人公が中年的な躰を曝け出すブライス・ダラス・ハワードが第一候補だったようには思えない。そのくらい後半のボディ・ラインを強調した黄色のドレスでの活劇には肝を冷やしたが、映像のカタルシスが遥かにその辺りの疑念を凌駕する。特に後半のフィギュア・スケートのシークエンスのカタルシスは映像作家が考える最上を越えて来る。凄まじい活劇である。
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