ボブおじさん

流浪の月のボブおじさんのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.0
月はいつだって丸い、だが見る時や場所によって見え方は異なる。満月🌕の夜もあれば三日月🌙の夜もある。雲によって見えないこともある。

実際に起きた客観的な〝事実〟は、揺るぎようがないのに、状況よって見え方や捉え方が変わるので〝真実〟は人によって異なる。やっかいなのは、事実とは時に異なる真実が、当事者にとっては必ずしも嘘ではないということだ。

〝事実〟は、帰れない事情を抱えた少女・更紗と公園で偶然出会った孤独な大学生・文が、彼女を自宅に招き入れしばらくの間、同居したということだ。〝真実〟は、居場所を見つけた幸せを噛みしめた2人の間には、他人には理解し難い確かな絆が生まれていたということだろう。

2人の関係性は対等で、そこには一切の脅迫や強制は介在しないように見えた。だがその夏の終わり、1人は〝誘拐犯〟もう1人は〝被害女児〟となっていた。

それから2人は世間から身を隠すように、ひっそりと生きていた。まるで昼の太陽から逃れた月のように。偶然の再会を遂げた15年後、2人にはそれぞれ恋人がいた。 

幼少期のトラウマやスキャンダラスな過去から逃れ、ささやかな幸せを掴もうとする2人を〝世間の好奇心〟が邪魔をする。本来は時と共に忘れ去られるはずの過去をデジタル社会が永遠に刻む。

主役の2人を演じた松坂桃李も広瀬すずも、ほとんど笑顔が無い。感情を置き忘れたかのような削いだ演技で、共に居場所のない流浪の旅を続ける。

感情の起伏のない2人に代わって横浜流星が、映画の中の喜怒哀楽を一手に引き受け感情を爆破させる。〝事実〟を知らない彼には2人の関係性を理解することはできない。それは多部未華子が演じた文の恋人や世間一般の感情でもある。

〝ロリコン〟〝可哀想な子〟〝加害者〟〝被害者〟。事実を知らない人が無責任につけるレッテルが永遠に彼らを苦しめる。

不幸な彼らの関係性を決して美しいとは思わない。だが2人の事実を都合よく捻じ曲げていい理由などどこにもない。