晴れない空の降らない雨

ナショナル・シアター・ライブ「十二夜」の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

-
 お下品な演出が多めだけど面白かった。喜劇ながら哀切な雰囲気が漂う締め方は、人生に対するシェイクスピアの諦観の現れだろうか。実際にオリヴィアと執事が可哀想だし。オリヴィアはこの結末に納得したのだろうか。常識的に考えると、それは難しいだろう。たとえ容姿が瓜二つであり、ヴァイオラが兄を演じていたとしても、やはり別人だろうから。オーシーノのしても、あれだけ夢中だったオリヴィアからあっさりヴァイオラに鞍替えする。2組のカップルの成立で終わるこの「大団円」は、どこかしっくりこない感じを与える。初期の喜劇『真夏の夜の夢』にも見られた、愛という混沌に対する結婚という制度=秩序の優位性を是認する態度が復活し、しかしそこにシニシズムが垣間見えるのだ。

 また、この作品の興味深いところは、男装した主人公が女性に惚れられたり、その女性に恋する男性に惚れたりし、暗に同性愛的な雰囲気があるところだろう(当時はどの役も男性や少年が演じていた)。もちろん、最後には全てが明かされ、人間関係は「正常」に戻されるが。ちなみに今回観た翻案では、脇役のキャラ付けに変更を加えることで、よりハッキリと同性愛色を打ち出していた。ただ、同じNTLの『真夏の夜の夢』にも同様の変更がなされており、ワンパターン化の疑惑を抱かせる。創意ある解釈というよりは、昨今のポリコレ風潮への安易な追従に思えてしまう。

 異彩を放つ道化のフェステのことも忘れてはならないだろう。オーシーノとオリヴィアの邸宅を行ったり来たりして平然と顔を出す彼女は、一体どのような身分だったのだろうか。結末といい本作には不可解な点が多く、当時のイングランド社会の事情に通じていないと十分に理解することはできなそうだ。