優しいアロエ

裁かるゝジャンヌの優しいアロエのレビュー・感想・評価

裁かるゝジャンヌ(1928年製作の映画)
5.0
〈画面一杯に溢るるジャンヌの激情〉

 熱い。ブレッソンの『ジャンヌ・ダルク裁判』同様、ジャンヌの異端審問から殉教までを描いた作品だが、与える印象はもはや対極にある。無機質な筆致を以てジャンヌの感情を解釈する余地を封鎖してみせたブレッソンに対し、ドライヤーの本作品は人間の感情というものが横溢している。熱を帯び、じゅくじゅくとしている。

 本作最大の特徴は、ジャンヌの顔面にカメラが極端に詰め寄ることだろう。これが今述べた稚拙な感想のわけである。微かな希望と悲嘆を揺動しつづけるジャンヌの葛藤がこの顔にはっきりと浮かび上がるのだ。下から見上げるような構図を常に緩く帯びていることから、彼女の視線の先には審問官ではなく神がいることが暗示される。ゆっくりと見開くあの薄色の眼には心奪われた。『女と男のいる舗道』のカリーナもきっとこの眼に涙を流したのだろう。

 果たして本作はジャンヌ・ダルクを普遍の人間として描きたかったのだろうか、それとも聖人として描きたかったのだろうか。ジャンヌの感情の機微に焦点を当てつづけた本作の姿勢は、彼女を人間的に捉えなおす意図によるものに思える。しかし、その結果映し出されるジャンヌの面貌があまりに劇的で人間離れしている。あるいは大仰な音楽、聖霊とされるハトの提示、彼女の死が民衆を突き動かした描写などからも、彼女の聖性、少なくとも彼女への畏怖の念のようなものを感じずに観ることは難しい。また、ジャンヌを演じたルイーズ・ルネ・ファルコッティが他作品に一切出演していないことも、ジャンヌの聖的イメージの瓦解を防いでいるだろう。

 シンプルだが、力強いエナジーと映像感覚が迸っている。わたしが映画に求めるものの原液のような作品だ。
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