けんくり

夢の涯てまでも  ディレクターズカット版のけんくりのレビュー・感想・評価

5.0
「究極のロードムービー」と名高い、5時間弱のヴェンダース作品に挑戦。

長いだけあって、とにかく色々なところに行きます。ベルリン、パリ、サンフランシスコ、東京、オーストラリア…etc。そして本当に本当に沢山の人と出会う。

場面転換は多いし、芯となるストーリーもちゃんとあるし、流石映像と音楽のコラボレーションは見事だし、意外にも退屈することなく、最後まで観れた5時間だった。

鑑賞後はさながら『進撃の巨人』を読みきった後みたいな…、ちょっと頭がぼうっとして放心状態になった。一本の映画で、こんな「大団円」感を得られるとはね…。

で冷静になって考えると、これは「人間の自由意志」についての映画なのかなと。

何となくずっと感じていたのは、なすがまま「状況」に導かれていく主人公の受動性。とってつけたような必然性のない終末設定の中で、それこそ、色々なところに「連れていかれ」、色々な人に「出会わされている」主人公。

恋人の2人が、小説家とカメラマンという設定なのも興味深い。小説家の描いた脚本と、カメラマンが撮りあげた映像という「状況」の中で、動くことを余儀なくされている主人公。

これって映画の構図そのものだなと思って、基本的に映画というのは、脚本があって、絵コンテがあって、役割を与えられた主人公は、それに従属せざるを得ない。

人生をそんな一本の映画のように捉えるのであれば、主人公たる"わたし"は、脚本や映像という名の、運命やら宿命やらに束縛されている?

でもこの『夢の涯てまでも』が描いてみせたのは、もっとその先。映画のあり方に意を唱えるように、物語を主人公の「自由意志」に託した。

主人公が自由意志に目覚め、自らで物語を紡ぎ出した時、本作の「本当の大団円」が訪れる。あながち『進撃の巨人』と同じ余韻があったのは間違いではなかったのかも。

「あなたの人生」の展開は、あなたが決めていい。この映画の主人公はあなたなんだから。あなたがこの結末を決める権利を持っている。

映画の構図を擬似的に描き、逆説的に「自由意志」を礼賛する。そんな「映画を使って映画を否定する」ような、勇気がありすぎる力作だと思った。