チェックメイト

予備選挙/プライマリーのチェックメイトのレビュー・感想・評価

予備選挙/プライマリー(1960年製作の映画)
3.8
邦題「予備選挙」
国立映画アーカイブのアカデミー・フィルム・アーカイブ映画コレクション。
第71回アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞受賞した伊比恵子監督の「ザ・パーソナルズ」との二本立て。

1960年アメリカ大統領選の民主党指名候補予備選挙を撮ったドキュメンタリー。

民主党上院議員のジョン・F・ケネディとヒューバート・ハンフリーの戦い。
あくまで自分個人の主観だが時間的にも映像側の狙いにもどちらか一方への思い入れはなく均等に写しているように見える。
実直で経験豊富な実務家然としたハンフリーに対してケネディの放つ若々しい理想主義的な雰囲気が感じられる。
ただどこか若僧的軽さをも映しているようにも感じる。

当時はまだあまり一般的ではなかった手持ちカメラを多用し密着撮影。
ケネディの頭上から俯瞰する演説会場の様子。移動する車で雑談するあるいはカーラジオからの予備選挙速報を聴く様子。
現代よりもはるかに候補者に近かった市民の様子が生々しい。
街中で見ず知らずの人に名刺を配りジョークをとばすハンフリー
信頼できそうな親父然としている。
若者のケネディへの熱狂は都市部ではないせいかかなり控えめだ。
これがニューヨークなんかだとまた違うんだろう。
子供や若者にも時間を割くケネディ。
渡り行く演説会場で終始笑顔を絶やさないジャクリーン・ケネディ。
群衆が押し合いへし合いするなかで撮影者の手持ちカメラが二人の顔を追う。
演説して回っているウィスコンシン州でのケネディ自身の状況劣勢を伝えるラジオを夜ホテルで黙って聴くケネディ。
ケネディにとってはハンフリーの地盤である農業地帯のウィスコンシンは人気は低いのだろう。

だだっ広く何もないなだらかな丘陵地帯を移動する二人それぞれの車。
スタッフは他にいないのかそれとも別のバスなど使うのか。極端に質素な二人の移動。

制作者が付与するキャプションはほとんどない。
TVやカーラジオから流れる選挙速報ニュースが映像を補完する。

最後で都市部での圧勝によりケネディが勝利するのが伝えられるが移動する車の後方を写しながらハンフリーの選挙応援歌が流れて終わる。オープニングもこの歌からだった。

おそらくダイレクト・シネマの先駆け的な作品ではなかろうか。
そう言えば1969年製作のメイズルスのドキュメンタリー「セールスマン」も車での移動が被写体の人間性を垣間見る瞬間でもあった。
手持ちカメラが一般的でなかった時代、なにげに映される側もそれほどカメラを意識してなかったんではなかろうか。そんな空気感が感じられた。
チェックメイト

チェックメイト