ワンコ

ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言のワンコのレビュー・感想・評価

4.3
【共犯の罪/国民の責任】

この作品は、この時代を生きたドイツ人は、今、そんな風に考えているんだとか、まだ、ナチスの亡霊から逃れられることが出来ていないんだとか考えるような単純ないドキュメンタリーではない。

10年近くかけて撮影されたのはなぜなのか考えさせられる。

この作品は、ホランド監督の質問に答える形式のインタビューを編集したものだが、この映画の紹介文に書かれているような単純な反応ではなくて、自問自答し逡巡する姿も描かれていて、その上でたどり着いた彼らなりの考え方が印象的だ。

(以下ネタバレ)

もっと洗脳されて、その呪縛から逃れられない人が多いのかと思っていたが、それは逆だった。

だから、序盤に流れる”生まれつき悪人はいない。それは作られる”と云う文言になるのだと思うが、映画を観た人は、どんな印象なのだろうか。

これは、ドイツだけの話でないだろう。

日本でも、ナチズムに染まっていた老人と対話するドイツの若者なように、”いつまで謝らなくてはならないのか”という言葉を何度も耳にすることがある。

だが、多くの年老いたドイツ人が、初めは自分の責任を認めたがらなかったものの、”共犯の罪はある”とか、ヒトラーが悪いんじゃないのかという質問に、”ドイツ人皆に責任がある”と答えたり、自分達はネオナチではないが、ドイツ人=ナチと思われているようで反論の余地がないと言っていた若者が、老人の意見に頷く様を見ると、人間の本来持っている良心のようなのにホッとさせられる。

また、暑い夏がやって来た。
昨日、8月6日は広島に原爆が落とされた原爆忌で、8月9日は長崎原爆忌だ。

夏にこうした反戦の映画が公開されることは多いが、同時に映画を観てもいないのに、こうした映画を観たかのようにネガティブなレビューを投稿する輩も現れる。Filmarksには少ないように思うが、「島守の塔」にも、この作品にもコンプラの甘い”某.com”にはいた。ウヨ公だ。

EテレのETV特集で、8月6日、昭和天皇の侍従長・百武三郎の日記が公開されたことにちなんだ特集を放送していた。

長州閥の陸軍と薩摩閥の海軍の対立、一矢を報いて講和を迫る一撃講和にこだわった昭和天皇など、第二次世界大戦の歴史に新たに加わるべき事実が記されていた。昭和天皇の戦争責任については無かったと信じたい人は多いと思うが、日本の死者310万人のうち90%は最後の一年間で亡くなられたことを考えると、一撃講和に昭和天皇がこだわったことに責任は無かったとは残念ながら言い難いと思う。
こうして、新たな事実や、この映画にも描かれる世代を超えた対話を通じて、僕達はずっと考え続けなくてはならないのだ。
ETV特集では、東大の教授が、明治維新から77年して、日本という国の有り様や国民の育て方を誤った結果が、第二次世界大戦と敗北だったのではないかと言っていたが、大本営の重要な一員だった岸信介が、霊感商法で大問題を引き起こした旧統一教会と関係を築き、安倍派が中心となり、その関係を堅持していたのを目の当たりにすると、戦後もこの国は国民の育て方を誤ったのではないかとさえ思わされる。
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