いち麦

コットンテールのいち麦のネタバレレビュー・内容・結末

コットンテール(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

イギリス湖水地方の美景で纏めた雰囲気優位の作品かとの予想は良い意味で裏切られ、夫婦や家族の関係を窺わせる描写のしっかりとしたドラマだった。

冒頭から兼三郎が不道徳であったり我儘で自己中心的であったりの描写。この彼の人物像が妻 明子との関係を理解する上でも意味を持っていると思う。
妻が自分の遺骨を撒いて欲しいと書き遺した場所は夫婦の思い出の場所などではなく、彼女が幼少期に父親と訪れた場所であった。明子は英語教師でもあった若い兼三郎に、ウィンダミア湖での思い出と父親への想いを重ねながら彼と結婚したのかも知れない。でも駆け出しの作家であった兼三郎は自分の世界に閉じこもりきりで、妻や息子も全く彼の心へと入ることができなかった。認知症の末路を憂い明子が自分の最期を兼三郎に頼んだことや、彼女の遺言に息子への言葉が全くなく散骨を兼三郎だけに託していたことは、明子が兼三郎をやんわりと責めている様に感じられてならない。兼三郎は間違いなく妻の明子を愛していたし、明子もそれを良く分かってはいたのだけれど…。兼三郎が散骨を急くように思い詰めるのも妻への贖いからだろうと理解できる。なかなか痛々しい。
ただ、最後に家族で野生の兎と戯れる光景は少し過剰演出にも思えた。若い兼三郎を演じた工藤孝生がリリー・フランキーそっくりで驚いた。
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