せーじ

コーダ あいのうたのせーじのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
3.8
313本目。
前回Markした『アイの歌声をきかせて』から「歌つながり」で選んだという訳でもないのですが、そういえば観てなかったなと思い起こした本作。あらすじを読む限りではなかなか重い内容で、かつフォロワーさんたちの評価も非常に高いということで、襟を正して鑑賞してみることにしました。




…うん、基本的には「いい作品」なのだとは思います。思いますが、うーんどうなのかなぁ、という感じだったでしょうか。
演出がよくなかったり、描写が足りないと感じる部分があったりで、個人的にはモヤモヤとしてしまいました。

■家族との関係性と生活環境から浮き上がる「問題提起」
いいなと思ったのは、ヒロインの生活環境や家族との関係がとても丁寧に描かれていたことでした。「家族の中で彼女だけが健聴である」場合、どういうことが起こるのかというのを、時にコメディタッチで軽妙に、時にシリアスで切実に、リアリティを持たせながらきちんと描ききっていたなと思います。序盤から中盤にかけてあった、ヒロインの両親が車で学校に迎えに来た時のことや、合唱の練習をするのに同級生の男の子を家に呼んだ時の「喜劇にも思える惨劇」は、例えるならダウンタウンのコント『おかんとマー君』のようなおかしみがあって、自分も笑ってしまいました。ああいう、両親に「勘弁してくれ!」と思うようなことを同級生の前で無自覚にされてしまう悲劇って万国共通なんだなぁと思いましたね。その被害に遭うのが年頃の女の子であるヒロインだったという意味ではマー君よりも数倍可哀想でしたが。一方、後半にある「ヒロインが不在である」ということで起きてしまった「悲劇」は、その間ヒロインが何をしていたのかというのを対比させがら描いていたので、よりその事件の痛々しさと、彼女が背負わされている「事情」が重くのしかかる構造になっており、そこでそれまで積み重ねてきたその問題による揺さぶりが極に達したのも含めて、観ていてとても複雑な気持ちになりました。母親からの告白なども含めて、葛藤に値する重く考えさせられる問題だったのではないかなと思います。ヤングケアラーという問題を扱うというのもタイムリーですし。
このように、ヒロインの生活環境や家族との関係性「そのものは」、とても丁寧に描かれていたと思います。

ですが…

■本質的な解決になってない結末と下駄を履かせすぎな展開
残念ながら劇中内の展開だけでは、提起された問題がきちんと解決していない様に見えてしまいましたし、それも含めた終盤の展開は、ちょっとどうなのかなと思ってしまうような部分が多く、とても勿体なかったです。そこまでに持ち上がった問題を受けて、どのようにして家族はヒロインを「試練の場」に送り出すことができたのかということを、問題が明確に解決をした様子を見せないまま話を進めてしまっていたので、自分は観ていてとてもモヤモヤとしてしまいました。おそらくヒロインの兄貴が色々頑張ったのだろうなとは思いますが、その様子も巧い形でキチンと見せていないので、そのせいで終盤の展開の結果がキチンとしたカタルシスになっていないように感じられてしまったのですよね。ヒロイン自身との対比をさせるという意味でも、そこは兄貴の活躍をキチンと入れるべきだったのではないかなと思います。勝手な推測ですが、おそらくそういった場面は撮っていたのだけど、編集の段階でオミットしてしまったではないのかなぁと自分は観ていて思いました。この物語の分量と語り口だったら、別にその分尺を増やして120~130分台にしたとしても、全く問題は無かったのではないかなと思うのですけどね。
それと、試験の場面の展開はいくらなんでもヒロインに下駄を履かせすぎでしょう。あれでは他の受験生との差があり過ぎて不公平だと思いました。そういうのをやりたいなら、何か彼女をガチのマジにさせる様な簡単な仕掛けというかアイテムを使い、彼女はそれのおかげでたった一人で成し遂げることが出来てしまった…みたいな形にした方が、まだ良かったのではないかなと思います。厳しいことを言ってしまうと、この話の場合、何も「音大に行くこと」だけがハッピーエンドではないのではないかなと思ってしまいますね。ちょっとそこが、考え方として窮屈になってしまっているように見えてしまって、自分はノれなかったです。

※※

とはいえ、基本的にはよく出来ている作品であり、笑える場面もあり、感動できる場面もありの、エンターテイメントとしては十分な完成度を持った作品なのではないかなと思います。自分が指摘している部分は些末なことなのでしょうし、気になるかどうかは人それぞれなのでしょう。
「音楽の先生がヒロインに歌う時の気持ちを問うた時に彼女が応えたシーン」や、「合唱コンサートのシーンでヒロインの父親が"気がつく"シーン」そして「その後に父親がヒロインの歌をもう一度"聴き取る"シーン」、あとは「二人で飛び込むシーン」などなど、いいなと思ったシーンも多かっただけに、個人的には惜しいなと思ってしまいました。
まだご覧になってない方はぜひぜひ。
元ネタとなった作品も観てみたいです。
せーじ

せーじ