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クレッシェンド 音楽の架け橋のwisteriaのレビュー・感想・評価

4.3
岡山シネマクレール公開初日に行ってきました!制作背景も知りたくなって久々にパンフレットも購入。

紛争の続くイスラエル🇮🇱とパレスチナ🇵🇸。両国からの若者を集め「和平コンサート」をする企画が始動し、指揮をするのが世界的マエストロのエドゥアルト・スポルク(ペーター・シモニスチェク)。両国それぞれの根深い遺恨がぶつかり合い一筋縄に練習すらも進まないが、和平交渉の進むイタリア🇮🇹南チロルでの合宿を通じて徐々にその距離は縮まっていく。しかしそこで予期せぬ事件が起こり、、、という物語。

最近の一つの流行りなのか『ドライブ・マイ・カー』でもあった多言語の飛び交う「ワークショップ」映画という側面がある。コンサートを作り上げていく過程そのものが作品を動かすダイナモとなっている。中でも、部屋の真ん中に国境さながらロープを引き、そこを挟んでお互いに手だけは出さない条件のもと両国の演奏者達が思いの丈をぶちまけあうシーンなどは、見ていて辛くなるもある種のカタルシスをもたらす効果がある。

タイトルにもある「クレッシェンド」を曲自体で象徴するクライマックスの『ボレロ』演奏場面は圧倒的に素晴らしいのだけど、物語はその大団円に向けて一直線に進む感じでもなく、相当の苦味と悲しみを含む展開となっていて、そこは観る人の好みの分かれるところかもしれない。

この映画のベースとなっているのがウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団という実在の楽団。ユダヤ系指揮者のダニエル・バレンボイムと『オリエンタリズム』で知られるパレスチナ系文学者エドワード・サイードによって1999年に立ち上げられたもの。といってもこの映画の物語自体はオリジナル要素が強く、マエストロのスポルクの両親はナチスの残党という設定になっているし、作中の「事件」もフィクションである。個人的にはモデル楽団の苦節の雰囲気を伝えてくれる箇所はめちゃくちゃ面白いのだが、このオリジナル要素の作為にはあまりに乗れないところもあった。あとエンドロールの音楽、あそこは普通にオーケストラ曲で良いのでは??

いくつか不満点はありつつも、総じて現代的なテーマを力強く提示して、文化芸術の可能性を存分に魅せてくれる佳作だと思った。理不尽に吹き荒れる暴力の突風を前にして、文化なんて意味がない、と無力感に襲われてしまうことがあっても、人間にとって長い目で大切なのは文化の力だと信じて。。
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