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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のドントのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
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 2023年。うむ、なるほど! みんなのヒーロー「ゲゲゲの鬼太郎」、その誕生譚以前のいわば鬼太郎-1.0。昭和31年、巨大製薬会社の社長が急死。密命を帯びた血液銀行員・水木は哭倉村へと向かうが、遺産相続のドロドロと殺人事件に巻き込まれる。そんな中遭遇した謎の男と友情を結びつつ事件の真相に迫っていくが、これは鬼太郎なので別のモノがドロドロと出てくるのであった!
 時代の狙い所や脚本の土台、裏テーマは相当にしっかり堅牢に作られていてかなりワクワクした。さらに戦争で心身に傷を負った男(原作はもちろん水木本人と、『総員玉砕せよ!』も背負っている)と、飄々としていつつ哀しみをたたえた鬼太郎の父親のキャラ立てあたりも美味しい感じで、『犬神家の一族』まんまの遺産争いの導入、ついでに第一の殺人は『獄門島』の三番目にも似てここまでやると大胆不敵、なかなかやっているな! とワクワクの二乗であった。
 だがしかし、これらの要素とアイデア出しまではよかったものの、組み合わせ方、並べ方、見せ方がどうにもうまいこと行っていない気がする。退屈したり呆れたりなどせず最後までそれなりに面白かったけれど、こんだけの材料があってすごい器に盛り付けられて出てきてオオッと食べてみたら意外と薄味というか、いや濃ければいいというわけではないが、淡白で深い味わいに乏しい気がしたのだ。これだけあって「それなり」なのがさみしい。全体的に演出パワーが弱い気がする。よく動くアニメだし背景も綺麗ではあるものの、グッと惹き付ける力がいまひとつ足りない。
 遺産相続ミステリの建て付けにしといて「これらはすべて……妖怪と呪術が原因だったんだよ! じゃあブッ壊すか!!!」とある種禁断の大技でもってブン回す心意気、ドンチャカ大殺戮に振っていくあたりの思い切りのよさも得点は高かったものの、やっぱラストバトルのね、「わいは悪人じゃ~ッ! ガハハ~ッ他人の不幸でメシがうまい~!」ムーヴがあまりにくどすぎて流れを阻害してたね。あの設定は悪役としてなかなかに興味深かったけど、何回もクドクドやるもんじゃないね。
「呪われた一族」周りのいろいろも過積載というか、「実は!」「実はなんと!」「なんと実は!」が4回くらいあって、それらが微妙にエグくありつつほどほどにエグみが抜かれてるため、どういう感じで受け止めればいいのか微妙な顔つきになっちゃった。水木とパパンが全部ボッコボコにすればスッキリもしようがそういうカタストロフィにも欠けるし(無論、簡単にスッキリさせない狙いもあったろうけど)
 総合していうと「面白いけど、惜しい」作品ということになるだろうか。ただこういうアプローチは大変によい、もうちょいコネれば3倍は面白くなると思う。マンネリを嫌う水木しげる先生も「なァかなか面白い試みで、こういうのが作られると水木サンにも金が入るし、次の世代にも繋がっていいですねェ」と褒めてくれるだろう、と勝手な想像をする。
 しかし「戦争で死ねなかった男が戦後、デカいバケモノに襲われる」という話が日本を代表するキャラの新作映画で被るというのは、なかなかに面白い現象ではなかろうか。あとなんとかして水木とパパンの続編(実は前にも会っていた的な)が作れないかしら。手鞠唄になぞらえて滝の岩棚に生首が吊るされるみたいな話を、こう……
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