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ボーはおそれているのドントのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.0
 2023年。どうかしてますよ。どうかしてますよ本当に。極度の不安症なのに治安の悪い地域に住む中年男性ボウ、愛情が重いお母さんからの連絡を受け止めつつ不安と恐怖の一日を送っていたら当のお母さんの怪死の知らせを耳にし、「早く帰りなさい。ウチの宗派では身内が揃ってから葬儀をやるんだぞ。早く帰りなさい」と身内に脅されて、長い長い怪奇帰省旅。
 突き詰めていくと、『ヘレディタリー』や『ミッドサマー』と同じ映画である。いや同じですよ。だって3本とも、自分にはどうにもならない大きなモノに動かされて流されていく話でしょう。それが本作では母親/ユダヤ教/不安(被害妄想)の三本柱なんスよ。それぞれがド濃ゆくて剥き出しでほとんど喜劇だが、あまりの濃度と丸出しぶりに悲劇にしか見えない。全裸中年男性が2人も出る(片方は主人公)のに笑えないというのは凄いことである。あまりの凄みに180分になっちゃっている。
 個人的には中盤までがね、身につまされて怖かったですね。調子が悪い時は「あの前から来る人が……急に理由もなく殴ってくるかもしれない……」とか考えてしまうので。ただこの映画が偉い点は、さんざんひどい目に遭わせておいて「おい!! 貴様のその被害者面はなんだ!!」とビンタしてくるところ。偉い点というか、異常なんですけどね。安易で安心な着地点を用意しないというか。やっつけたり乗り越えて終わり、にしない。
 それって娯楽映画としてどうなの、とは思う。でもこれ娯楽映画つっていいんですかね? なんか、つらすぎませんか映画としては。映画/創作というお湯にくぐらして中年男性という皿に盛ってあるけど、ほぼナマの苦しみがそのままお出しされてきて口の中にグイグイくる。冗談じゃねぇ事態だが解る人には解る味なので喰わされてしまうし、解らない人にも「とりあえず気弱な中年男性がひどい目に遭っている」という絵面だけで楽しめてしまう。となるとやっぱり娯楽映画なのか……? 
 とまれ、こうお出しされるとユダヤ教的桎梏は河合隼雄言うところの「母系社会」日本に近いもののように思われ、宗教がわからなくてもなんかこう、日本人だと身につまされるというか、アーッ怖い、イヤだねこれは、という気持ちが伝わりやすかったりするのでは、なんて考えたりもする。同時に度の外れた語り口であるからして、恐怖を越えたある種の迫力、異常さも有している。そしてこの呪いの旅路が180分になるのはやっぱりおかしい。結局のところ「どうかしてますよ」という感想に尽きるのであった。どうかしてますよ。
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