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イントロダクションのnetfilmsのレビュー・感想・評価

イントロダクション(2020年製作の映画)
4.0
 青年の青春期の挫折を描く映画にも関わらず、いきなり父親の祈りの場面で始まる不可解さに参った。しかも父親は3部構成の2部からまったく出て来ない上に、3部では代父のような舞台役者にこっぴどく叱られる有様だ。青年ヨンホ(シン・ソクホ)の考えなど父親にはほとんど見透かされている。その上息子があてにしている資金の援助もない。フラフラと浮ついた行動を繰り返すヨンホが純愛に生きているように見えてロクでもない人物であることは、病院での看護師とのやり取りから垣間見える。約束の時間に尋ねたにも関わらず、父親との面会の時間はなかなか訪れない。散々待たされる度に煙草の量は増えて行く。流石に患者の脈拍を測り始めた時には参ったが、父親には息子と面と向かって話す勇気がないのだ。韓方病院を訪れる前にヨンホは恋人ジュウォン(パク・ミソ)との僅かな別れを惜しんだ。まだ将来やるべき何かが見つからないヨンホは、衣裳デザインを学ぼうと前に進む決意をしたジュウォンをただただ羨ましく思うのだ。病院への足取りは重かった癖に、ドイツへ行くと決めた恋人を追うヨンホの足取りはひたすら軽やかだ。韓国から遠く離れたドイツの地では『夜の浜辺でひとり』のキム・ミニがいる。ここでもホン・サンスの作品世界はシームレスに繋がりを帯び、それぞれに何がしかの影響を及ぼし合う。

 3部仕立ての物語はその全てが繋がっているように見えて微妙に繋がっていない。ただ青年ヨンホが俳優を志し、夢破れたこと、そしてジュウォンが彼の元を去ったことだけは確かな現実としてそこに在る。共に夢を追ったはずの最愛の人は彼の意図に反し、既にここにはいない。青年の傷みは母親にとっても傷みだと言わんばかりにここでは『あなたの顔の前に』と地続きの母親(チョ・ユニ)に連れられ、冒頭に必死の形相で祈りを込めた父親ではなく、彼の患者だった舞台役者が酒場でヨンホの到着を待ち構える。心底居心地の悪い場に誘われたヨンホは友人(『あなたの顔の前に』で助監督だったハ・ソングク)を間に挟む。絶対に酔ってはならないという禁じ手はヨンホにとって大した禁じ手ではない。彼はとても酒に酔えるような精神状態ではないのだ。アルコールが回らない代わりにここではアルコールの手助けによって青年ヨンホは微睡の世界に誘われる。『あなたの顔の前に』同様にここではその微睡の時間が果たして10分だったのか3時間だったのか半日だったのかはわからない。潮の満ち引きを計算してもなおである。然しながら夢に誘われる茫漠たる時間は青年のほろ苦い人生を微かな幸福で照らし出す。だがその夢のような時間は、彼女がやがて呟いた有限たる「生」の告白であっさりと終焉を迎えるのだ。抱きしめたはずだった女たちの温度はアルコールと潮風で気配すら失くす。抱きしめたはずの記憶ですら全ては無に向かう。虚無ではなく圧倒的な無へと。
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