しの

対峙のしののレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
4.3
密室での会話劇映画としてとんでもなく揺さぶられた。取り返しのつかない傷を抱えた2組の夫婦が癒しと赦しを求めて会話していくプロセスがほぼリアルタイムで描かれるが、ふとした弾みで自分でも予想外の言葉が出てきてしまう様、それによりある境地へと到達していく描写がリアルで巧みすぎる。

教会というシチュエーションや冒頭の被害者側夫婦の会話から、話の着地点は最初から見えているのだと分かる。しかしそこに到達するのがどれほど困難か。むしろそもそも到達する意味ってなんなのか。それを倫理や論理ではなく、人間同士が対話し、時には傷付けあうことによって到達するプロセスそのもので理解させる。

何故こうなったか、止める術はなかったのか……話は色々な方向へと向かうが、どれも本当であってどれも本当ではない。過去を振り返っている時点で、実際の所は本人にしか、いや本人にも分からないかもしれない。ではどうしたらこれは終わるのか? 「終わって」いいのか? ここまで踏み込んでいる。

素晴らしいのは、対話というものが相手に想像力を巡らせることであり、それによって自分を予想だにしない境地へと導いてくれるものでもある、ということが描かれていることだ。相手を正面に据えて、そうした過程を重ねることでしか辿り着けない境地が確実にあるはずだと。普遍的な現象を描いている。

何より、一見会話だけで成立しているようで、誰をどのタイミングで同一カットに収めるのか、固定と手持ちをいかに使い分けるかといった撮影手法や、あるいはサウンドデザインなども非常に重要な役割を担っている。それによって俯瞰ではなく当事者として立ち会う感覚が生まれるからこそ、「過程」の重みを体感できるのではないかと思う。

話にエンジンがかかり出すのがやや遅いのと、とある映画的なギミックが設備によってはやや伝わりづらいのではないかとは思うが、気になったのはそこくらい。演技が凄まじすぎることも特筆すべきだろう。倫理や論理の前に、他者に向き合うこととその過程。今日、特に見失いがちなことがパッケージされているという意味で大切な一作だ。
しの

しの