しの

名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)のしののレビュー・感想・評価

3.2
キャラ萌え路線を維持しつつ、そこに依拠しすぎない作りを模索していることがよく分かった。『黒鉄の魚影』公開後のPのインタビューで「現状のままを良しとはしていない」という旨があったが、確かに今回は解の一つだ。ただ、これはこれで長く続かない手だなとも思う。

最も感心したのは、例の「キャラクター>アクション>ミステリー」の黄金比を維持しつつ、それが極力分離しないような作りになっていた点。これまではミステリーの建て付けのなかでキャラのイチャつきやワイスピ的アクションが目的先行的に置かれ、アホらしくなることが多々あった。しかし今回はそういう事態を比較的回避していたと思う。

たとえば、今回は和葉を巡って平次と聖が対決するロマンスの構図がある。しかしこれがミステリーの主軸から分離しない。前半でこそ和葉を取り合う対決の図式が強調されるが、それは一時中断される形で布石となり、クライマックスでミステリーの決着およびアクションの見せ場として回収されるのだ。また、今回は紅葉が平次の告白を妨害しにかかるという構図もある。しかしこれもそれ単体で分離したものになっていない。詳しくは言わないが、紅葉の存在が本作の「ミステリー」「アクション」「キャラクター(ロマンス)」の要素に対しそれぞれ大きく作用するシーンがちゃんと用意されている。

また、今回は「北の大地でお宝争奪戦」というモロにゴールデンカムイな主軸があるため、常に緊張感が保たれるというのが大きい。かつそこで下手にキッドにフォーカスしすぎず絶妙な距離感(とはいえほぼ馴れ合いだが、あくまで過去作と比較して)の協力関係に留めたのも良かった。このお宝探しミステリーは、函館の五稜郭という舞台から逆算して作られている。特に「刀」が重要で、これが謎解きの重要なヒントにもなれば、チャンバラアクションの武器にもなる。更に、謎解きやアクションを進めることが観光名所巡りにもなっている。この効率性もまた良かった。

このように、キャラクターとアクションとミステリーの各要素を渾然一体にして、かつ今回はとにかく立て続けに何かしら展開し続ける(小五郎曰く「同時に色んなこと起こりすぎ」)という話法を徹底することで、緊張感を保ったままコナン映画の売りとなる要素を体感できる作りになっている。そして最後には大ネタ明かしもあるわけで、つまりライト層はハイテンポなお宝探し争奪戦の文脈で楽しみやすいし、コア層は更にここで初解禁となる重要情報をいち早く知りに行くという動機が生まれるということになっている。なるほど確かに磨きがかかった作りだ。少なくとも、キャラ萌えインフレに甘んじない意図は見える。

ただ、自分はこれはこれで限界が見える気がした。というのも、やはり観終わったときに「これ結局なんの話だったの?」となる感覚は拭えないのだ。お宝探し争奪戦の結末はあまりに呆気ないし、キッドが参戦した意味も結局めちゃくちゃ薄い。平次と和葉のロマンスも言わずもがな……。それは結局、本作単体のテーマやドラマを核に据えていないからだと思う。

たとえば今回、色んなところで「父と子」あるいは「次世代への信念の継承」という要素がこだましているので、ここを結んでちゃんとドラマ的な決着をつけてくれれば良かったのに、そういう見せ方をしない。そうなると、「これだけややこしいことをしておいて結局そんだけの話ですか」という後味になってしまう。もちろん、お宝探しモノにおいて道中が楽しくて結末は呆気ないという展開自体は王道なのだが、その呆気なさにこそ意味が生まれるドラマがセットでないと意味がないと思う。

つまり本作単体で感じ入れる何かはないわけで、そうなるとやっぱり「キャラの関係性が進展するかしないかの焦らし」や、あるいは逆に「縦軸を一気に進める大ネタ」への依存からは完全には脱却できていない作りだということになる。正直、平次のアレは見ていて居た堪れなかった。加えていえば、ところどころ作画が不安定になる瞬間があったのもノイズだった。

個人的に今回最大の収穫は、前述したPの発言の事実性を確認できたことかもしれない。自分が述べたようなシリーズへの懸念なんて作り手は百も承知どころか、その4手5手先まで考えている(事実、コナン映画は常に3作品くらい先までのアイデアが練られている)ので、その模索を楽しむシリーズとしたいなと改めて思った。

※感想ラジオ
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』は新機軸!楽しいけど今後への期待と不安も……【ネタバレ感想】 https://youtu.be/qh-9SmaelY4?si=4DAEmV9XyAYzbLbo
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