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Night of the Kings(英題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

Night of the Kings(英題)(2020年製作の映画)
3.5
【コートジボワールの刑務所で千夜一夜物語やってみた】
第93回アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストに選出されたコートジボワール映画『Night of Kings』を観ました。監督のPhilippe Lacôteは首相を殺した男の逃亡劇『RUN』を製作し、初長編にもかかわらず第67回カンヌ国際映画祭ある視点部門に選出された注目監督です。雰囲気、ゴリゴリの社会派映画かなと思っていたら抱腹絶倒の映画でありました。

コートジボワールの治安悪き刑務所「La Maca」。そこを牛耳るボスは余命僅か。ガスボンベで命を繋いでいる状態だ。刑務所の治安は崩壊の危機に瀕しており、ボスは面白い話、つまりエンターテイメントを求めていた。そこへ新入りが入ってくる。女を食い物にしていた囚人たちは、新しいおもちゃが現れたと大歓喜し、いじり始める。これはしめたとボスは彼を指名し、「La Macaのすべらない話」に出場するよう要請する。ここでつまらない話をしたら、この青年の命はない。極限状態でいざ会場に挑む。

本作は千夜一夜物語をベースに極限状態の中で生まれる語りについて描かれている。面白いのは「すべらない話」に参加しているつもりが、いつの間にか「ディビジョンバトル」に巻き込まれてしまう厄介な状況下で、主人公の語りが覚醒していくところにある。この刑務所の人は悪い意味でノリが良い。主人公が一言話すたびに、ブーイングが巻き起こったり、彼の話に合わせて即興で踊りを踊ったりする人がいるのだ。その為、30分くらいで終わりそうな話なのに、全く終わる気配がなく、ごはん休憩が挟まったりするのだ。滅茶苦茶やりにくい状況で挑戦する「すべらない話」故に、主人公の冷や汗がとんでもない状態になっているのだが、ふと客席を見ると何故かドニ・ラヴァンが見守っているのです。鳥を携え、明らかに不審者なのに、刑務所の人は割と無視している。座敷童のようにその空間にいるドニ・ラヴァンが主人公に小さく「ガンバ!」と応援しているところに腹筋が崩壊しそうになりました。

また、本作では途中で突然、2000年代初頭クオリティのVFXで呪術廻戦もどきのバトルが繰り広げられて、これがまた爆笑を誘いました。

正直、93分に押し込むにはあまりにも尺が足りず、肝心な「ROMAN(=物語)」が空中分解していたことは否めない。テレビシリーズだったらもっと傑作に仕上がっていたんだろうなと思うのですが、観たことのないようなマリアージュを叩きつけられるので満足度の高い一本だったと言えよう。日本公開はしなさそうだ...
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