geji

汝は二十歳で死ぬのgejiのレビュー・感想・評価

汝は二十歳で死ぬ(2019年製作の映画)
3.8
時々入る絵画っぽいカットがめちゃくちゃ良かった。
マリアとイエスっぽい母子像
黒い服のお母さんを取り囲む白い布に赤いタルブーシュの人々(スーフィズムの憑依のシーン)

スライマーンが良かった

女たちのキャラがしっかりしてて好きだった
母も彼女もスライマーンの彼女も

音楽も良き

スライマーンの言葉が示すように、白は、黒いインクと対比しなければ本当には白さが分からない

罪(黒いインク)を犯してみろとスライマーンは言う。
それまでは黒のない白しか体験したことのなかった主人公、また

それでもこの物語は、罪を犯したことで主人公が信仰(白さ)を失うという話でも、イスラームを捨てて世俗化するという話でも全くなく、罪の黒さを知ったうえで信仰を持っているということだと思う。

ただ宗教と世俗という対立なら、スライマーンはインクをかけた紙を「まだ白い」とは言わなかったはず。
(てかそもそもイスラームは近代以降のヨーロッパのキリスト教が「宗教」を内面にとどめ、公の場では「世俗」化したようなやり方では区別していない。イスラームという宗教は内なる信仰だけではなく実践が重視されるので生活と区分できない)
スライマーン自身も、クルアーンの暗唱に反発し、酒などの罪を犯しながらもどこかで信仰は持っていたのでは?

あと、売店のおじちゃんが禁止されてる酒の販売をこっそりやりながらも、マット敷いてサラートしてて、黒を知りながら白さを実践するという伏線になっていたのでは?と思う。


この映画に出てくる女の人たちは、西洋によるムスリマ表象のように、イスラームに/ムスリムの男たちに「抑圧されて」はいない。当たり前だけど。彼女たちは主体性を持っているし、イスラームを捨てたいとかイスラームから解放されたいとか思っていない。
主人公の彼女は自分から好意を伝えるし、寿命を気にして煮え切らない態度の主人公を見限って自分の人生のために他の男を選ぶ。
スライマーンの彼女も、一度は置いていかれたけど自分の意思で彼と共にいることを選んでいる。
主人公の母親は、イマームの言葉を信じながら、別のイマームに会いに行ったり、いろんな手を尽くして希望を見出そうとする。彼女にとって信仰はなくてはならないもので、あって当たり前のものだ。イマームの言葉は彼女と息子を苦しめるけど、信仰がまた彼女を救っている感じ?

女性表象で一つ引っかかったことといえば、主人公が、スライマーンの言葉を実践して罪を犯すために、スライマーンに残された彼女を頼るところ。いや、お前が罪を犯すための道具じゃねえよと突っ込みを入れたくなったが、彼女が最終的に受け入れるのは愛するスライマーンを亡くした穴を埋めるため?と考えるならば、お互いにお互いをある意味利用しているので、どっちもどっちかもな、と思った。

主人公についてくる男の子は障害者役なのかな。ふつうに出てきていて、共同体のなかではああいうあり方が当たり前なのかもしれない。

「あの子の命名式で歌ったわ」って言ってた女の人がいたけど、命名式で歌うってアフリカっぽいというか、グリオっぽいのかなと思った。アラブにもあるのか?

婚約式がカラフルで賑やかで可愛かった。

映画を知らない主人公と、映写機を大事そうに遺産だというスライマーンが、軍事独裁政権下で廃れたスーダンの映画産業(冒頭の説明にあったように)を示唆しているのかなと思った。

あとあれか、馬はミウラージュの天馬か?
お告げ的な?
geji

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