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映画検閲官(仮題)のGreenTのレビュー・感想・評価

映画検閲官(仮題)(2021年製作の映画)
3.5
これはホラー映画ではありませんので、ホラー映画嫌いな方も安心して御覧ください。


イニッドはBBFCというイギリスの映倫のような機関で映画の検閲官をしているが、暴力シーンを厳しく取り締まるので「ミス・リトル・パーフェクト」などと同僚から陰口を叩かれている。

イニッドを演じるニーヴ・アルガーって人がいいですね。セレブ臭がない役者って雰囲気。って思ってたら、『レイズド・バイ・ウルヴス/神なき惑星』にも出てたわ。どっかで観たことあると思った。

イニッドの妹ニナは、7歳のときに行方不明になったままで、イニッドの両親はとうとうニナを死亡認定することに決めるが、イニッドはニナが生きていると信じたい・・・。

どうもイニッドは、ニナがいなくなった時一緒にいたのに、状況が記憶から抜け落ちていて、それで罪の意識を感じているらしい。映画の検閲官になったのも、暴力的な映画が犯罪を助長すると信じていて、それを防ぎたいと思ったからのようだ。

この映画すごい興味を持ったのは、プロットに層があるなあって思ったからなんですね。イニッドが映画の検閲官って設定も新鮮だったし、妹が行方不明というのもミステリーがあるんだけど、その背景になっている1985年のイギリスは、サッチャー政権下で「ヴィデオ・ナスティ」っていう運動があったらしい。

これは、たくさんのスプラッターやスラッシャー的なB級映画がVHSでバンバン販売されるようになって、子供も観るし、そうした映画に影響された犯罪が出てきたり、社会的に映画を厳しく取り締まるようになった動きで、アメリカの「サタニック・パニック」に匹敵するものらしい。

確かにこの頃、ジューダス・プリーストやツイステッド・シスターズなどのメタル・バンドが裁判やったり、レコードに “Parental Guidance” のステッカーが貼られるようになった時期。だけど私、イギリスの「ヴィデオ・ナスティ」ってのは知らなかった。

こういう社会的背景っていうか、「設定はXXXX年」ってしておいて、全くプロットに絡んでこなくて「現代の設定にすればいいじゃん」って思う映画も多いのですが、この映画はイニットが選んだ職業が映画検閲官なのは、「妹が行方不明になったのは自分のせい」という罪悪感と、この時代の「犯罪は映画のせい」という認識のためだったんだ、と物語にガッツリ絡んできて上手いなあ、と思わされました。

イニットの服装も、オールド・ミス的な、ひっつめ頭に襟の詰まったブラウス、金縁メガネ(首からかける鎖付き)という、80s的な感じが上手い。

それプラスもう一つの層は、当時の女性蔑視的な社会。暴力的な映画に出資する有名プロデューサーがイニッドに「検閲官なのに美人だねえ。僕の映画に出て欲しいよ」とか言う。イニッドが「レイプされ八つ裂きにされる役なんてイヤよ」とやり返すと「大衆はそれを望んでいるんだよ」と言われる。

これは映画業界における女性の扱われ方というもう一つの層もあるし、人間には暴力的な本質があるのでは?など何重にもストーリーに絡んでくる。

そしてイニッドは、このプロデューサーが制作した映画のストーリーが、自分の妹が消えた時の状況に似ていることを発見するのだが、この映画では姉が妹を惨殺する。妹役の女優が自分の行方不明の妹だと確信し、イニッドはこの女優を「搾取する映画業界」から救おうとするが・・・・。


って面白い話でしょ?ちょっと私の個人的な好みではスロー過ぎるところもあったのですが、陰鬱な雰囲気も良いし、なによりもストーリーが面白い!

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