ショーが上演され歌われているこの現実が決してユートピアなどでは無いことを、我々はよく知っている。
まずは単に楽しくて斬新な素晴らしいショーだと言える。
デヴィッドバーンを中心にメンバーが歌い踊る。緻密に計算され洗練され躍動するその様子だけで十分楽しくていい。
いいのだけど。
始まってすぐは何が歌われるのか、ショーのテーマがわからなくて呆気に取られたが、段々とこのショーの意味するところが輪郭を帯びていく。
ジャネールモネイのカバーをすることに対してしっかり筋を通しているその姿勢は真摯でそれだけでも感動するし、だからこそ、その後のパフォーマンスも胸に重く響く。
そして、ゴスペルに乗せて歌われる、『希望』というフレーズが繰り返されるOne Fine Day。非常に切実なものがあり、胸に迫って涙してしまった。
選挙に行くことだけが態度を示す方法では無いけれど、誰しもにとってその一つとして確実に大きなウェイトを占めるはずで、日本に生きる我々にとっても大事だ。
UTOPIA starts with U/YOU.
スパイクリーが監督である意味。
ここにきてデヴィッドバーンって歌上手いんだなって思った。
Everybody’s Coming to My Houseという曲は、本編中でも言及されていたように確かに聴こえ方が異なっていて、エンドロールに乗せて流れるバージョンは感動的な響きだった。
ちょっとパフォーマンスと字幕との両方を追いかけるのに大変でまとまらない感じになったので、上映中もう一度行ってちゃんと色々考えたい。
20240522
劇場で。
脳の働きについて歌うっていうのはつまり、個々の人間存在について歌っているってことなのだろうか。
主に差別に対してのメッセージが強く出ているが、それはやはり人間それぞれの命を尊重するということに繋がっていくだろうし、それは(一見関係無いかのように切り離して考えてしまいがちな)自分たち自身の人生をよりよくすることにもつながってくるということだ。
トーキングヘッズから共通して歌われているモチーフの家はつまり今いる自分の位置を指しているのだろうと思う。
我々に、今いる安定した位置を尊重しながらも更に一歩、変革の可能性へと踏み出すことを訴える。
映像作品としてはストップメイキングセンスの方がダイナミックで良いと感じるが、一方でこの映画には洗練された良さがあり楽しい作品だった。
最後のやりきった!という顔のデヴィッドバーンの笑顔がなにより素晴らしいと思う。