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カラーパープルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

カラーパープル(2023年製作の映画)
3.5
 スピルバーグが監督を務めた『ウエスト・サイド・ストーリー』同様に、リメイク版も悪くないのだが決してあしらいの良い映画ではない。素直に乗れないというかどこか釈然としない感覚も残る。85年のオリジナルが153分あり、スピルバーグの映画がアカデミー賞におもねり、長尺化して行くある種の元凶となった作品と言えるが、アカデミー賞に10部門ノミネートされていながら無冠に終わったスピルバーグにとっては歴史上の汚点であり、原作者のアリス・ウォーカーもスピルバーグが映画化を打診していると聞いて最初は難色を示したらしいが、結局はクインシー・ジョーンズが仲介に入る形で映画化された。その辺りの苦労話や悲喜交々は散々語られているのでそちらを参照されたい。アンブリンという配給会社は当のスピルバーグが1981年に設立したアメリカの映画及びテレビ番組製作会社であり、スピルバーグ直系の子会社のような雰囲気もある。様々な野心的な企画や脚本が日々スピルバーグの元には届くのだと言い、自分では監督したくないがカネになりそうな企画は一旦アンブリンに預けられ、ヒット請負人のスピルバーグのアドバイスを経て磨かれ、ウェルメイドな娯楽映画へと生まれ変わって行く。

 製作陣は当然、オリジナル版は擦り切れるほど観ているのだろうし、最終決定権がスピルバーグにあることは百も承知なのだろうが、それにしても最高権力者に阿ったねという嫌味な感想しか出て来ない。それ程今作のミュージカル・シーンはほとんど全てがダメだと思った。オリジナルでヒロインだったウーピー・ゴールドバーグのお産婆での出演はスピルバーグらしい遊び心として微笑ましく見守ったのだが、劇映画からミュージカルへの劇的なスウィッチングがあまりにも唐突で、観客の中にエモーショナルな情感が沸き立つ遥か前に無理矢理、ミュージカル・シークエンスに移行している側面は否めない。85年からおよそ40年が経ち、黒人の文化や美意識への理解や人々の人権意識というのは日々進歩しているはずである。スピルバーグの映画に家父長制の不在が出て来る作品が多いのに対し、今作は家父長制に纏わる古い因習を扱うから、男たちの様子を憎々しく感じる人も多いに違いない。だが男女同権に向かうベクトルとフェミニズム的なヒロインのシスターフッド的な連帯で言えば脚本も安直に流れ過ぎていないか。ハリー・ベイリーとシアラのWキャストの使い分けも何だか微妙だし、主人公が嫁いだ先の人物の相関関係もオリジナル版を観ていない者からすればやや唐突で、もう少し丁寧な描写があっても良い。またオリジナル版でスピルバーグが強調した読み書き(教育)の重要性にも特化しておらず、過去のイシューと現在のイシューのあれもこれも詰め込み過ぎて、バランスが崩れた印象は否めない。
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