えいがうるふ

竜とそばかすの姫のえいがうるふのネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

巷の評価がどうであれ自分が嫌いな映画には全く忖度せず酷評を書いてしまうせいか、むしろ身内には低評価レビューのほうを楽しみにされるようになってしまった。時にはこの作品のように「あまりに駄作で腹が立ったので酷評レビュー読んで溜飲を下げたい!早く観て!」と、逆リコメンドまでされる始末。
で、もともと自分でも既に苦手意識のある細田監督作品だけにあまり気は進まなかったが、ようやく重い腰を上げて観てみた結果、一部の皆様の期待通りの長文と相成った。

予想通り、映像のクオリティは確かに素晴らしい。相変わらず日本のアニメならではの背景作画の美しさは惚れ惚れする完成度。いっそ背景だけ眺めていたい。肝心の歌姫の歌唱も、個人的な好みからは外れていたものの音響効果は凄いのだろう。

だがしかし、いかんせん脚本が酷すぎて何も心に響かなかった。
全体のまとまりも個々の見せ場もツッコミどころだらけ。またしても監督自身のフェチ全開の「こんな画が欲しい」をむりくり繋げただけのご都合ストーリーで、イライラしながら映像を追い続けたところで、クライマックスの感動もラストのカタルシスも感じられず、なんとも言えないフラストレーションだけが残った。

(この先も無駄に長い辛口駄文レビューが続きます。この作品をお好きな方はここいらでのお引取りを推奨します)











では続き。

そもそも冒頭から登場人物のキャラ設定が古くてびっくり。学園物につきものの才色兼備のマドンナやら、ヒロインをそっと見守る陰のある王子様とその相棒のやんちゃ男子、オタク属性だが親が金持ちで頼りになる親友、主人公は幼くして母を亡くし父親とはギクシャクしたまま思春期真っ只中の陰キャ女子・・・いったいいつの時代の少女漫画?

そこへさらにぶち込まれるUという仮想空間のお粗末さたるや。せっかく未来の最先端VR技術を前提として数々のテクニカルなツッコミを強引にねじ伏せて成立させている話なのに、観ていて恥ずかしいほど臆面なくなぞらえたディズニーの美女と野獣そのまんまのお花畑展開といい、一方的に正義の味方を名乗る悪役のビジュアルから言動まで徹底したステレオタイプぶりといい、冒頭で見せられた現実世界と同じくベースとなる世界観が80〜90年代のアニメからアップデートされていない印象。
ましてそこに集うアバターは皆ふわふわ浮いて流れているだけで退屈そうで、だからこそ何かあればSNSでの炎上よろしく即バズる。その付和雷同をビジュアル化したような分かりやすく幼稚なリアクションも古い。こんな退屈そうな場所に個人の生体情報をもとに勝手に生成されるアバター(ってのも相当失礼で不愉快極まりない)を晒してまで集う理由が全然分からない。まして、スポンサーがばりばりついた利権がらみの謎の自警団によって強制的に身バレさせられるリスクまであるという、超危険なその場所に何が楽しくてログインするのか。もしやここのアカウント作らないと保険証が使えないとかのヤバいカラクリがあるのでは・・

無名のヒロインがメタバースで注目されアイドル化するまでの展開の安易さにもびっくりだが、現実の自分とは無関係の存在になれたからこそそれを叶えられたという立場をまるっと棚上げして、出会った竜の身元をしつこく探ろうとするのはどうなんだ。かと思えば話の進行上、やむなく自ら突然の顔出し。視聴者の中には子どももいるだろうに、ネットリテラシーへの配慮などどこ吹く風のご都合展開に唖然。すかさず「ここで全員号泣」とト書きテロップが流れたかのように、突然ベルを取り囲む数多の聴衆が一斉に感涙を流すという押し付けがましい感動描写にいよいよ鼻白んだ。

ベルの歌は、確かに今どきのJpop最新チャートを支えるメジャーリスナー層に確実にウケるであろう布陣を揃えてのあざとい楽曲製作としては成功したのだろうが、これが全世界からアクセスしている億単位のリスナーを一様に感動させる強さを持った歌かといえば、説得力に欠けるのは否めない。(作中の歌の扱いに対する個人の感想であり、中村佳穂の歌声には固有の魅力があると思う)

さらにリアルに戻ってからの登場人物全員が危機管理能力ゼロと思われるありえない暴走展開に至ってはつまらないを通り越して怒りが湧いてきた。特に大人たちの責任放棄っぷりが酷い。こんなものを子どもたちに見せてしまっていいのだろうかと不安になる。
挙げ句、それほどの危険を冒してヒロインが行き着いた先のドラマに何のカタルシスもなく、唖然とするほどあっけなく中途半端な平和エンドに至る。対決シーンの何も起こらなさはある意味豪快ですらある。ヒロインはいったい何の能力者だったのだろうか・・?

ほしい属性のキャラをとりあえず全部ぶっこむのはいいが、良さげな食材を片っ端からぶちこめば豊かな味わいの料理が出来るかと言えばもちろんそんなことはなく、雑味だらけでメインの持ち味がぼやけ、入れすぎた隠し味が素材の風味すら打ち消した謎料理に成り果てるのがオチ。
案の定、仮想空間であれほど力を入れて盛り上げた美女と野獣ストーリーはうやむやに忘れ去られ、気がつけばヒロインは現実世界の王子様といい感じに。リアルでの児童虐待問題は何ら解決せず、わざわざ高速バスに飛び乗って何しに高知から東京まで乗り込んで行ったのか本気で分からない。

物語があるようで何も語られず、全てが中途半端に終わり味わえるはずの余韻すら残らないこの破綻がまかり通るなんて、制作陣にもはや細田氏にオリジナル脚本を諦めろと言える人はいないのだろうか。
トドメに手抜き感を隠そうともしない、やたら長いだけの静止画エンドロール。こっちももはやツッコミ疲れ、画面に流れるそれを虚無の心で眺めていた。

と、散々な文章を書いてしまったが、そもそも最初から自分には苦痛だろうと予想していたものを敢えて観たら案の定だったというだけなので、文句をいう筋合いはない。すみません。
だからなんだかんだ言って今後も私は彼の新作が出ればきっとそのうち観てしまうのだ。こんな駄文レビューで溜飲を下げたいと言ってくれる誰かの為に、そして、いち映画ファンとしての自分のドM趣味を満たすために。嗚呼。