てっぺい

キャラクターのてっぺいのレビュー・感想・評価

キャラクター(2021年製作の映画)
4.0
【文化を作る映画】
裏の裏をついてくる脚本の妙。幾重にも張り巡らされた伏線回収もあり、重々しく問いかけてくるラストの響きもいい。日本の文化である漫画を起点に広がるこの映画の世界観。もはやこの映画も文化そのもの。
◆概要
原案・脚本:「20世紀少年」長崎尚志
監督:「世界から猫が消えたなら」永井聡
出演:菅田将暉、Fukase、小栗旬、中村獅童、高畑充希
◆ストーリー
ある日、一家殺人事件とその犯人を目撃してしまった、漫画家アシスタントの山城は、自分だけが知っている犯人をキャラクターにサスペンス漫画「34」を描き始める。漫画は大ヒットし、山城は一躍売れっ子漫画家の道を歩んでいく。そんな中、「34」で描かれた物語を模した事件が次々と発生する。
◆トリビア
○本作は、SEKAI NO OWARIのボーカル・Fukaseの俳優デビュー作で、Fukaseは1年間演技のワークショップに通うなどの役作りを経て出演のオファーを受けた。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/キャラクター_(2021年の映画))
○ ノベライズ版、およびコミカライズ版が発売予定。なお、映画版、ノベライズ版、コミカライズ版でそれぞれ異なる展開とエンディングが描かれる。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/キャラクター_(2021年の映画))
○ Fukaseは、映画を観たSEKAI NO OWARIメンバーのSaoriから「これを演じながらラブソングを書いていたの、マジサイコパス」と言われた。(https://natalie.mu/eiga/news/432145)
○ 原案・脚本の長崎尚志はかつて小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」編集長であり、漫画家の実情を本作でリアルに描いている。(https://eiga.com/news/20210610/6/)

◆以下ネタバレレビュー

◆脚本
自分の書いた漫画の通りに事件が起こってしまうこの映画の発想そのものの面白さ。その漫画をおとりにして犯人をおびき寄せる発想の転換。さらには、真の4人家族が山城一家ではなく、夏美と生まれる家族である、展開の裏返し。そしてラスト、山城に乗り移る狂気。見る側の裏を突きまくってくる、練りに練られた脚本がもはや爽快。個人的には、小栗旬ほどの大物役者でも本作では殉職してしまう事も驚きだった。
◆伏線回収
なぜ夏美が性別を山城に伝えなかったのか。夏美に宿る双子、山城が迎える4人家族という本作での“幸せの象徴”を、見る側に気づかせない、脚本の見事な工夫だった。そして思い返せば、清田の居酒屋での聞き込みを見つめる目線の映像も、清田の殉職に至るまでの両角の執拗な犯行の伏線だった。細かい伏線回収も含めて、まるで両角の犯行のように緻密で執拗な構成の工夫があったと思う。
◆狂気
「先生は漫画を通して人殺しを楽しんでるんでしょ」と本屋で両角が山城に言うシーン。終わってみれば、これも伏線の一つであり、山城の中に宿る狂気が、最終的に両角を瀕死に追い詰める。プレロールでも「僕は誰なんですか?」と両角のセリフに山城の顔が重ねられる。つまり、“共作”と山城が両角に伝えていたのは虚偽ではなく、自分の作品が現実になる事に快感を覚え、いつしか山城は自分の中に狂気を内包していた。ダガーという殺人鬼は、山城が発想した“キャラクター”ではなく、山城が自ら宿していた狂気を、両角という狂気との共鳴をきっかけに生み落とした、自分自身だったのだ。漫画では山城の上に重なる両角という構図が、実際の現場では逆になっていたのも、そう考えると頷ける。
◆漫画
前述の通り、脚本の長崎尚志は、元漫画雑誌の編集長。どんなに絵が上手くても売れないアマチュア漫画家の苦悩や、プロの元で働くアシスタントたちもとてもリアルだった。漫画は未だに世界レベルで日本という国のれっきとした文化であり特徴な訳で、それを題材にした、実力満点の本作は、世界に受け入れられても不思議じゃない。ぜひ今後の動向に期待したい。ちなみに、売れた山城の仕事部屋に、自分の漫画バイブルであるAKIRAがしっかり並べてあったのを見逃さなかった。(そういえば、菅田将暉主演の「花束みたいな恋をした」でも、菅田演じる麦の部屋にAKIRAが並べてあったけど、これは偶然か?)
てっぺい

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