CHEBUNBUN

彼女の告発のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

彼女の告発(2020年製作の映画)
4.0
【権威に絡め取られる女性】
Netflixのナイジェリア映画を集中して観ていると、女性が結婚至上主義やハラスメントに立ち向かう作品が少なくない。『アービトレーション: 交差する視点』、『ナマステ・ワハラ ~トラブルよ、こんにちは~』に引き続き、女性の性的暴力被害を描いた『彼女の告発』を観ました。これだけ女性の苦難を扱った作品が多いということは、実際にナイジェリアで多い問題なんだろう。それだけに『彼女の告発』は繊細で高解像度な女性の苦悩が描かれてました。

冒頭から強烈だ。論文受理を人質にモーテルに誘う大学教授。抵抗するもやむ得ず条件を飲む女学生。しかし、彼女はそれで泣き寝入りするような人ではなかった。行為が行われると、扉が破壊され、男子学生が突撃し先生を道に引きずり出す。女学生はスマホで証拠を撮る。しかし、その騒動の中で学校の先生は車に轢かれて死んでしまうのだ。学校に呼び出される関係者。「学校に窓口があったのに何故相談しなかったんだ。」と詰問し、結局彼女の単位は全て没収されてしまった。無情である。

それから二年後、大学院に通い国際政治について学ぶモレミは、人からの眼差しに息苦しさを感じているようだ。また、女性の権利について活動する人々に冷たい視線を送っている。そんな彼女は、空手をしている医学生にナンパされる。イヤイヤ接するものの段々と親密になる。一方で、国際社会学の教授とディスカッションするうちにこちらもまた親密な関係になっていく。しかし、ある日教授にセクハラを受ける。彼女は学校に訴えるものの、「権威ある彼はそんな態度を取らない」と学校の委員会は彼の肩を持つのだ。教授も冷静沈着に「彼女は想像力が高いのでしょう。」と言うのだ。しまいには、授業中にモレミの論文に失望したと、他の学生がいるにもかかわらず目の前で破り捨ててしまう。

冒頭で「学校に何故相談しなかったんだ」と語るが、学校に相談したところによって権威によって潰されてしまうのだ。あれだけ国際社会学で、同じ資本主義でもロシア寄りと西欧寄りではイデオロギーは変わるのかという問いについて学生と冷静に討論していても、性的暴行を前にその討論スキルを悪用して切り抜けようとしてしまう。権威を前にした陰湿な加害を辛辣に描くのだ。

確かにモレミの行動自体、誤解を与えかねないものもある。しかし、それがこの映画のキーであり、人間誰しも完璧ではない。その不完全さに漬け込まれて窮地に追い込まれる様子を捉えているのだ。これは遠いナイジェリアの問題だけでなく、日本も他人事ではない。Netflixに入っているのであればオススメしたい作品である。
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