Maoryu002

この茫漠たる荒野でのMaoryu002のレビュー・感想・評価

この茫漠たる荒野で(2020年製作の映画)
4.2
1870年、元南軍で新聞の読み聞かせをしていたジェファーソン・カイル・キッド大尉(トム・ハンクス)は先住民に育てられた白人の少女ジョハンナ(ヘレナ・ゼンゲル)を見つけ、遠い親族に届けることになる。途中、悪党や無法者、飢えや砂嵐に襲われながら、2人は信頼関係を築いていくのだった。

静かな感動を呼ぶ素晴らしい映画だった。
さすがポール・グリーングラス監督。西部劇の娯楽性をしっかり楽しませながら、重い社会問題と戦争の悲劇を差し込んでくる。

特に前半の銃撃戦はかなり見ごたえがある。最近、こんなに緊迫感と高揚感のある西部劇の撃ち合いはなかったんじゃないかな。
まさか硬貨とは!

その後は、この時代のアメリカ南部の悲惨さが語られ始める。
人々は北軍に敗れても諦めきれず、北部を憎み続けている。昔イジメられた子供が別の誰かをイジメるように、怒りを弱者にぶつけて、黒人や原住民から搾取する。
そんな不寛容と暴力による抑圧は、いつの時代にも存在するんだと言っているようにも見える。

そんな中で理性的な行動が際立つジェファーソンだが、やがて彼の暗い過去と苦悩が明らかになる。
彼は妻の死を受け入れ、きっと将来に何かを残さないとと思ったんだろう。そして、ジョハンナを時代の悲劇の犠牲者にしてはいけないと。

そんな元軍人と少女の姿は「レオン」や「トゥルー・グリッド」のようではあるが、自分は厳しい社会状況と孤独な2人、そして血の繋がりより強い絆に「ペーパー・ムーン」を思い起こした。

そんなジェファーソンを演じるのはやはりトム・ハンクスしかいなかったんだろう。自分の罪に憑りつかれながらも、ジョハンナをほってはおけない優しさが自然とにじみ出る。

劇中ほとんどがジェファーソンとジョハンナの場面だが、他にも「トゥルー・グリット」のエリザベス・マーヴェルや、懐かしの「セント・エルモス・ファイアー」のメア・ウィニンガムと、なかなか味のある女優も出ていた。

この映画はハッピーエンドで本当に良かった。ラスト3分間はホッとして涙が出た。
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