Eike

エンプティ・マンのEikeのレビュー・感想・評価

エンプティ・マン(2020年製作の映画)
3.2
2020年公開のこの低予算ホラーがほとんど話題にならなかったのは20世紀Foxがディズニー買収されたタイミングと公開時期が重なったこともあって全くプロモーションされなかったのが大きな理由であるそう。
それを別にしてもこの内容ではディズニー傘下ではまず製作にこぎつけることも難しかったでしょうが。
予告ではティーンエイジャーたちが邪悪な存在を不用意に召喚してしまったことから悲惨な目に遭う、といういかにも「お馴染み」の内容に見えました。
ところが物語はブータンの山岳地帯をトレッキング旅行するアメリカ人の二組のカップルの受難シーンから始まっており、意表を突かれました。

その23年後のアメリカ、ミズーリ州の小さな町。そこで高校生たちが次々に命を絶つ事件が発生。
行方不明となった女子生徒の母親に手を貸してその娘の行方を追う元刑事のジェームズはやがて一連の出来事の裏にEmpty Manと呼ばれる謎の存在の影を嗅ぎ取ります。
その正体を追ってカルト教団に近づいた彼に予想だにしない運命が待ち受けていた…。

本作への評価は高くありません。それもまぁ仕方ないかなと言う気もいたします。
まず、本作2時間17分とB級ホラーにしては上映時間が長い。
グラフィックノベルの原作があるということでその骨格を活かした結果でしょうが、シンプルな「ホラー映画」を期待する観客からするとちょっと「辛気臭い」と思われるかも。
実の所、本作はホラーというよりはミステリー的な側面の方が大きい作品であります。
主人公ジェームズを演じるJames Badge Daleは地味ではありますが演技面は手堅いベテランであり、そのお陰で最後まで関心は途切れませんでした。
ただ、ミステリーとしての関心がラストの非常にオカルト的なあしらいで処理されているのは少し残念に感じました。
と言うのも本作の設定自体は見かけとは裏腹に中々に野心的であるから。
一山いくらといった体で乱造されるホラー映画とはかなり毛色が異なっていてお話の展開も先読みできず、その点だけでも評価したいところだ。

過去にブータンの山岳地帯でアメリカからやって来た若者がとある「触れてはならぬ存在」に接触したことが20数年を経てミズーリ州のとある町で起きた若者たちを襲う悲劇とどう結びつくのか。
結末はこの展開から予想できないスケールを孕んでいるのだがその不穏さが今一つ伝わってこないのは残念。
本作、実のところはいわゆるCosmic Horrorとも言えるスケールを孕んだ内容なのだ。

また異国/異文化の邪神との接触がもたらす怪異には文化の衝突としての側面もあり、個人的に興味がある設定であります。
思い起こせばこの設定は「エクソシスト」と共通するものであります。
あちらはイラクの遺跡発掘現場で悪霊パズズと邂逅した米国人の神父が後年、ワシントンDCで少女に憑依したその存在と対峙することとなる内容でありました。
生憎本作はミステリーとしての側面に注力し過ぎた面があり、ホラーとしてのアピール度には少々欠けている気がいたしました。
Empty Manの意図やその影響の行きつく先についてもう少し分かりやすく提示してもらえたら異色のコズミック・ホラーとなったかもしれません。
ただ、野心的とも言えるその内容から一部でカルト的に評価する向きもあるようで、その事実はこの映画に相応しい気がいたします。
Eike

Eike